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YIDFF 2017 インターナショナル・コンペティション
カーキ色の記憶
アルフォーズ・タンジュール 監督インタビュー

カーキ色の世界で見た夢


Q: 他のシリアのドキュメンタリー映画とは異なり、劇映画的な要素が強く、すごく新鮮に感じられました。作品中にたびたび出てくる男の子は、監督の少年時代を表現しているのでしょうか?

AT: あの少年は、私の少年時代だけではなく、シリア人がどのように育てられたかなど、いろいろなことを象徴しています。40年以上続くバース党の政権下、私たちシリア人は、12歳から18歳までカーキ色の制服を学校の制服として着せられています。皆、同じ記憶を持っています。少年が制服の下に来ている赤いTシャツの「赤」という色は、抑圧されてきた私たちにとって、自由やレジスタンスの象徴となっていた色でした。さらに、まだ若く、生命力に満ち溢れている少年が、いつ飛んでくる銃弾で消されてしまうかわからない、そんな儚さも表しています。また、少年が木でライフルを作るシーンがありますが、そんなもので戦えるわけがありません。バース党の政権下、このようなありもしないことを、私たちは教えられてきた。あのシーンでは、そのことを表現したかったのです。

Q: 作中では、夢の中にいるようなシーンが多用されていて、それが内容の深みを生んでいると思います。そのような表現方法は、意図的に選択されたのでしょうか?

AT: この映画で題材にしている出来事は、まだ続いています。シリア人の私は、この題材について距離を置いて観ることができません。ですが、私はジャーナリスティックな映画を撮りたいとも思いません。私は劇映画を勉強していて、脚本などを書くのが好きなのです。シリアの人々が傷つき、赤ん坊が泣き叫ぶショッキングな映像を、もう何度も観ているので、そのような映像は見せたくありませんでした。なので、そのようなものとは違う視点、違う表現方法を使い、何かを象徴する表現や、クリエイティブな撮り方で、現在起きていることを表現しようと考えました。そして、人々を尊厳を持って描き、自分や他の人に正直に作るには、同じ夢や痛みを共有した友だちを撮るのが良いと考えました。なので、映画に出演している人はすべて私の友人です。

Q: シリアの中で、監督が思い入れのある場所や、好きだった場所はどこでしょうか?

AT: 母が住んでいるサラミーヤという小さな町です。私は母と6年間会っていないのですが、毎日電話で、生きているかどうか確認し、話をしています。最近はいろいろな勢力から攻撃を受けて、毎日のようにミサイルが飛んでくるらしいです。2番目に大切な場所は、私がかつて住んでいたダマスクスです。友だちも大勢住んでいて、そこでまた、妻とふたりの子どもと一緒に、コーヒーが飲めることを願っています。

 私は今回の映画を作ることで、「カーキ色の記憶」を自分の中から追いだせると思っていたのですが、そんなことはありませんでした。現在も、毎日、この記憶の中で生きています。

(構成:棈木達也)

インタビュアー:棈木達也、沼沢善一郎/通訳:山之内悦子
写真撮影:赤司萌香/ビデオ撮影:鳥羽梨緒/2017-10-08