フィリップ・ヴィトマン 監督インタビュー
不在と存在
Q: おばあさんが、叔母さんに夢の話をするシーンがとても印象的でした。あのシーンの意図は何ですか?
PW: テーマとして、存在はするけれども、肉体として存在しない「霊」というものがあります。あのシーンでは短い語りのなかで「不在と存在」の多くを語っています。「生存している人」「亡くなっている人」という区切りで分けられているのではなく、たとえ、そこに居ない人であっても、生存している人と同じコミュニティに存在しています。つまり、家族は不在であっても家族であって、同じ歴史を共有し、生存している家族に、なんらかの影響を及ぼしているのだと思います。こういったことは、日ごろ口にしていなくても、見えないけれども、私たちの生活を形作っているように思います。そこに私も共感する部分があり、テーマになりました。不在なものと実在しているものが、どのような関係性を持つか。過去というものは実際には見えないわけですが、個人が過去をどう受け取るか、ということだと思います。私たちは故人を供養し、霊に幸せであってほしいと願います。霊という具体性のないものに、私たちは具体的な行動を行っている。そういったことがとても興味深いのです。
Q: なぜこの家族を撮影しようと思ったのですか?
PW: 2005年に最初にベトナムへ赴いた際に、この映画の脚本を担当したグエン・フォン・ダンとともに彼の家族と会ったとき、映画を撮影する可能性を感じました。グエン・フォン・ダンはベトナム人ですが、ドイツ育ちなので、彼にとってもベトナムは、そんなによく知っている地ではありません。ですが、父親のファムや叔父のハムの死が、遠いドイツにいる家族に直接的な影響を及ぼしたということに、とても関心を持ちました。
Q: 構図が美しいと感じましたが、フレームの決め方や撮影には、どのような意図がありましたか?
PW: カメラを固定して長く撮影し、写真的アプローチを試み、時系列で撮影することにはあまりこだわらず、次のショットに移行するようにしました。また、この映画特有の部分であり、私が常に考えていることでもありますが、音がとても重要です。この映画には「こういう題材で、こういうことに関して話す」ということや、撮影場所に関して、どの空間で撮るかを決めた台本があります。家の構造や人々の動き方、話し方を把握したうえで、登場した人物も理解できるように考慮しました。また、家は普段、彼らが生活しているパーソナルなスペースです。カメラを持って追い回して、土足で家に踏み込むようなことはしたくなかったので、家族が心地の良いように努めました。これは映画の部分、これは私生活という線引きをしたかったのです。あと、事前に決めていたのはワンテイクで撮るということです。これは演劇的な手法と言えると思います。舞台を設置してフレームのここまでは見える、ここからは見えない、というように、家族が自分をコントロールできるように決定権を与えました。家族の皆さんに、今、何が起こっているのかを把握してもらい、不安を解消したかったのです。音、風景、場所、テンポ、雰囲気を一番生かすにはどうすれば良いのかという、いろんな要素を加味しての決断でした。
(構成:奥山心一朗)
インタビュアー:奥山心一朗、佐藤寛朗/通訳:松下由美
写真撮影:佐藤寛朗/ビデオ撮影:高橋明日香/2017-10-08