朱声仄(ジュー・ションゾー) 監督インタビュー
出稼ぎ労働者家族の食卓風景から今の中国が垣間見える
Q: 中国の、とある出稼ぎ労働者家庭の食卓風景が、長廻しで映しだされますが、どのように撮影したのですか?
ZS: まずは、2013年12月にテスト撮影をしました。そして、翌2014年1月から月におよそ4回、多いときで月に8回ほど撮りました。各月、ある程度の間を空けたかったので毎月半ばの2週間ぐらいを撮影にあてています。ですので、前月は月末に撮影し翌月は月頭に撮影するということはしませんでした。たった13カットしかない映画ですが、実は編集に1年かかりました。それは、それぞれの月の冒頭とラストの展開を選ぶのが、とても難しかったからです。
また、カメラのフレームというものを生かしたいと思いました。映画の冒頭、1月は家族を紹介する意味も込めて全体を見わたせるよう、カメラを大きく引いたワイドで撮り、終盤になってくると、ミディアムショットぐらいのサイズにしました。そうすることで、フレームに何かを語らせたかったのです。
Q: どこにでもある家族の日常風景が、見事に切り取られていたと思います。被写体との距離感は、どのように取っていたのですか?
ZS: 被写体となった家族とは、2012年に知り合ったので、信頼関係を築くのに十分な時間はありました。ですので、みんなカメラの前で自然に振る舞うことができたのだと思います。それにくわえ、家族が自然な振る舞いのできる環境を意図的に作りました。
まず小型カメラを使用し、撮影時はカメラマンと私だけ。照明は使用しませんでした。そして自分たちの居場所を決めて、カメラを廻しはじめたら、一切そこから動かずじっとしていました。そうやって家族がカメラや私たちの存在を、ほとんど感じないでいられる環境を作ったのです。とは言うものの、私たちの存在は把握していますから、12月の場面で、長女が母親と喧嘩して泣きはじめたとき、彼女は泣き顔を撮られたくないがために、カメラに対して背中を向けるということがありました。
Q: 目覚ましく発展していく中国経済、一方で、その発展にはどのような問題があると考えていますか?
ZS: 中国では今、地方の人たちが大都会へ働きにでるという動きが活発になり、都心部に人口が集中しています。ただ中国には地方に住んでいる人と、都会に住んでいる人を区別する戸籍の制度があり、これによって、地方に住んでいる人たちは、都市部に行っても就職や教育機会が極めて限られるという現実があります。それでも地方の人たちが都心部へ出稼ぎするのは、たとえ低賃金であっても、農村の田畑を耕しているよりもお金になるからなのです。こうした出稼ぎ労働者というのは、大変弱い立場に立たされています。その現実を表現したくて3世代の家族を被写体に選びました。
今、目覚ましく発展している中国経済を背景に、1年を通じて家族がどういう変化を見せるのか、ひとりひとりはどう変わっていくのか、日常に起きる些細な出来事が、その人の人生をどうかたち作っていくのか、社会問題とは別に、そうした人間の普遍的なものに興味があります。
(構成:大川晃弘)
インタビュアー:大川晃弘、永山桃/通訳:山之内悦子
写真撮影:田寺冴子/ビデオ撮影:狩野はる菜/2017-10-06