審査員
足立正生
●審査員のことば
海外の映画人たちが「ヤマガタ」と親しく呼び、「俺たちの創造魂のメトロポリタンだ!」と意気込んで出かけ、参加した興奮で頬を紅潮させて戻ってきた人々に話を聞いたことは何度かあった。
しかし今、真っ先に思い出すのは、ちょうど小川紳介さんが日本映画監督協会の新人賞を受けたときに、静かに語り合った想いの数々だ。
それは、やはり映画は手作りがいい。いや、創るだけではなく、観る者と創る者が膝詰めで話し込めるのがいい、そんな場を早急に実現したい、ということだった。
私はその続きに、映画は闘いや運動、時代と向き合ってしか語れないし創れない、小川さん自身は、できるだけ早く農本主義の歴史と現在の農業世界を凝視し、作品として提出していくべきだ、と提案した。小川さんは考え込んで頷いていた。
そして、話し合っていた「場」が、やがて、まさに「ヤマガタ」として実現していたし、その後の小川さんが「稲」に取り組んでいたことを観て知った。
さらに「阿賀野川」の佐藤真さんと交わした会話では、ドラマとドキュメンタリーを別物扱いする通念を作品の側から打ち破ろう、ということだった。そんな創造の闘いのなかで佐藤さんも逝った。
その「ヤマガタ」に、私は初めて参加する。 私は今、そんな仲間たちとの思い出や感慨に浸るためだけに行くのではない。いや、むしろ、創造世界の苦闘のなかで逝った映画人たちの想いを抱きしめながら、新たに苦闘している人々の志に出会いに行く。今の時代と現実に向き合った、ほとばしる想いを提出してくれる作品群との出会いを求めて行く。今回のアジアや世界の作品たちは、きっと新たな魂の姿を現しているに違いない。
そして、そんな彼らの創造の闘いに、私もまた参列するつもりだ。
1939年生まれ。日本大学芸術学部在学中、『鎖陰』(1963)で脚光を浴びる。若松孝二の独立プロダクションで前衛的なピンク映画の脚本を量産し、監督も手がける。パレスティナで『赤軍 ― PFLP・世界戦争宣言』(1971)を共同製作。1974年より日本を離れ、パレスティナ解放闘争に身を投じる。1997年にレバノンで逮捕され、3年の禁固刑ののち日本へ強制送還。2006年、赤軍メンバーの岡本公三をモデルにした映画『幽閉者 テロリスト』を発表。著作に、『映画への戦略』(1974)、『映画/革命』(2003)、『Le Bus de la révolution passera bientôt près de chez toi: Écrits sur le cinéma, la guérilla et l'avant-garde』(2012) など。近年は足立作品の特集が欧米各地で巡回上映されている。
略称・連続射殺魔
AKA Serial Killer-
日本/1969/日本語/カラ―/35mm/86分
共同製作:足立正生、岩淵進、中村光三郎、野々村政行、山崎裕、佐々木守、松田政男
音楽監修:相倉久人
演奏:富樫雅彦、高木元輝
編集:山田幸子、市丸房子
ナレーション:足立正生
提供:足立正生全映画上映実行委員会
「去年の秋 四つの都市で同じ拳銃を使った 四つの殺人事件があった 今年の春 19歳の少年が逮捕された 彼は連続射殺魔とよばれた」という文字。主人公・永山則夫の軌跡を、彼がそれまでの人生で転々とした土地の風景を撮影することで辿る。生まれた北海道網走、家族の住む板柳、家出先の弘前や山形、米屋に住み込んだ大阪守口、定時制高校に通った東京中野の牛乳店、密航を試みた神戸、等々。ジャズサックスとドラムの伴走と、出来事を淡々と語る足立の短いナレーションに導かれ、画面に不在の永山の選択と運命を規定したとも言える日本の風景を、迷いなく見つめる。