なみのこえ(YIDFF特別版)
Voices from the Waves-
日本/2013/日本語/カラー/Blu-ray/213分
監督、脚本、編集、録音:酒井耕、濱口竜介
撮影:酒井耕、濱口竜介、北川喜雄
整音:鈴木昭彦
製作:相澤久美(サイレントヴォイス)
製作会社・配給:サイレントヴォイス有限責任事業組合 www.silentvoice.jp
YIDFF 2011で上映された『なみのおと』に続く新作。前作同様、東日本大震災の被災者どうしの対話や、監督自身がスクリーンに登場するインタビューにより構成されている。被災者の声とともに、津波で失われたものたちの声が記録される。対話を重ねることで言葉は彼らの魂に触れ、それは時に震災の体験を超え、普遍的な日常についての思索ともなる。喪失したものへの追悼と、復興への希望が混じり合い、映画はさらに新しい境地を切り開いた。
【監督のことば】『なみのこえ』は、2011年に製作された『なみのおと』の続編であり、前作を踏襲する形で東日本大震災の津波被災者に対するインタビューから成る。『なみのおと』は震災から約半年後、岩手から福島におよぶ広域で記録したのに対し、『なみのこえ』は震災から約1年後に、福島県新地町と宮城県気仙沼市に絞って記録した。それぞれ、『なみのこえ 新地町』『なみのこえ 気仙沼』として別個に製作された2つの作品を、今回は3時間33分の1本の映画として上映する。
私たちがインタビューをしていくなかで心がけたことは、話を聞く相手を被災の過酷さや体験談の鮮烈さによって選ばないということだ。私たちは出会った多くの被災者に、「私たちよりもっと悲惨な体験をした人がいるから、そちらに聞いて欲しい」と何度となく言われた。地震でライフラインが止まった人、家が半壊した人、家を流された人、親しい人を流された人、家族を波に呑まれた人……。どこかにある「被災の中心」から離れるほど、語れない。彼らは被災したにもかかわらず、被災の度合いによって「負い目」を感じているようだった。しかし、その「被災の中心」を求めて行く先は、もはや声なき死者である。決して聞くことのできない「死者の声」が、生き残った人々の声を封じていた。
本作に登場する21人は、単に震災のことだけを語るわけではない。彼らは被災体験を語り合ううちに、インタビューを「おしゃべり」へと変えていく。そこにあるのは「被災者」の声ではなく、彼ら一人ひとりの声だ。私たちはこの声を100年先まで残したいと考えた。100年後の未来、私たちは同じく死者であり、この映画は「死者の声」になっているだろう。映画に収められた彼らの声と、今は聞くことのできない波に消えた声が、100年後の未来でつながっていくことを祈って、『なみのこえ』は撮られている。
1979年、長野県生まれ。現在の活動拠点は東京。東京農業大学在学中に自主制作映画を手掛ける。卒業後、社会人として働いた後、 2005年に東京藝術大学大学院映像研究科監督領域に入学。修了制作は『Creep』(2007)。他の作品に『ホーム スイート ホーム』(2006)。
濱口竜介
1978年、神奈川県生まれ。現在の活動拠点は神戸。東京大学文学部卒業後、映画の助監督やテレビ番組のADとして働いた後、2006 年に東京藝術大学大学院映像研究科監督領域に入学。修了制作は『PASSION』(2008)。劇映画としては『親密さ』(2012)、『不気味なものの肌に触れる』(2013)を監督。