English

審査員
ドロテー・ヴェナー


-●審査員のことば

 私が「ヤマガタ」の一語に「ドキュメンタリー映画製作の聖地」という響きを聞くとすれば、それは小川プロダクションを題材にしたバーバラ・ハマーの素晴らしい作品『Devotion ― 小川紳介と生きた人々』のおかげである。この映画を見て以来、私は他に類例のないこの映画祭のことを頭に思い描いてきた。まもなく彼の地を訪れるわけだが、その際には、『Devotion』を通して教えられたことから生じてきた情熱(それは映画製作という革命の夢をともに抱き、果敢にもそれを現実に生きようとした日本の映画監督たちに向けられたものである)を分かち合いたいと考えている。

 つまり、私がヤマガタで見たいと思っているのは、すでに確立されたテレビ的手法やドキュメンタリーの規則にラディカルに反撥しているがゆえに、ここに出品されているような作品だ。というより、私の思い描くヤマガタは、映画製作に関わるあらゆる点――画面に映っているか否か、あるいは個人的な作品か、職業として映画を製作しているかにかかわらず――、あらゆるレベルに存在するあらゆる既存の規則に介入し、それを押し広げ、挑みかかろうとする衝動にとりつかれて撮られたような作品にこそ相応しい場所である。

 10月の数日間、魂で結ばれた仲間たちの共同体が上映会場に集い、その後は酒場で今しがた見た作品の議論が始まる。称賛と批判、双方の意見が戦わされ、そこにいる者たちには、ドキュメンタリーが人生のために作られており、リアリティ・ショーとは異なるものだという理解が共有されている。ここで私は密かにこう思う。ヤマガタに抱いている幻想が崩れないようにするため、私はそこへ行くべきではないのではないか? 私はあまりに知りたがりで、あまりに期待を抱きすぎている……。


ドロテー・ヴェナー

ベルリン在住の映画作家、キュレーター。ナイジェリアの映画産業ノリウッドを描いた『Peace Mission』(2008)や、ムンバイの女性専用通勤車両を取材した『Ladies Special』(1999)などを監督。1990年よりベルリン国際映画祭フォーラム部門の選考委員を務め、ベルリンおよびドバイ映画祭でインドとサハラ以南のアフリカ地域を担当する。2006〜08年はベルリン映画祭タレント・キャンパスのディレクターを務めた。キュレーターとしても、インドやアフリカに関わる映画や展覧会の企画を数多く手がけている。



ドラマ・コンサルタント

DramaConsult

- ドイツ/2012/英語/カラ―/Blu-ray/80分

監督、脚本:ドロテー・ヴェナー
撮影:ベルント・マイナーズ
録音:パスカル・キャピトリン
音楽:フィリップ・シェフナー
編集:メルレ・クレーガー
共同製作:ドイツ文化センター、ZDF/ARTE、wave-line
製作会社、配給:ポン

ナイジェリアの大都会ラゴス。若く野心あふれる小事業経営者たちが、ドラマ・コンサルト社と相談しながら、ドイツとの共同ビジネスや投資を求める旅に出る。饒舌でドラマチックなコミュニケーションを好むナイジェリア人、用心深く堅実さを大事にするドイツ人。文化や商習慣の異なるドイツで、自動車部品、不動産開発、靴製造を営むナイジェリア人が成功を手にできるのか? グローバリズムの時代、個人レベルの経済活動を文化交流と異文化理解のひとつの冒険として描く。汚職などアフリカの現実問題はいったん切り離し、試験的舞台を与えられた出演者たちの素の演技から、アジアでも役立つ教訓が見いだせる。