チョール 国境の沈む島
Char . . . The No-Man's Island-
インド、日本、イタリア、デンマーク、ノルウェー/2012/ベンガル語/カラー/Blu-ray/88分
監督、プロデューサー、編集:ソーラヴ・サーランギ
撮影:ソーラヴ・サーランギ、ラビンドラナート・ダス、マイナルール・モンダル
音響効果:ソーラヴ・サーランギ、田口恭平
制作統括:小谷亮太
国際共同制作:ソン・エ・リュミエール、NHK
国際共同制作協力:シュテフィルム・インターナショナル、ファイナル・カット・フォー・リアル、シネマ・オスロ
著作、提供:日本放送協会 www.nhk.or.jp
(アジア以外の国での配給:キャット・アンド・ドックス)
インドとバングラデシュの間を流れる大河ガンジスに浮かぶ中洲の島々「チョール」。蛇行する川はサイクロンのたびに流れを変え、脆い大地はしばしば崩れ落ち、人々は何度も住む場所を失っている。映画はチョールで暮らす少年ルベルの生活を中心に、10年以上をかけて撮影された。彼らは危険を冒しながら闇市で物資を売って金銭を稼いでいるが、いまだ貧困から逃れる術はない。窮乏した生活の足元を非情にも浸食してくる自然の脅威が、静かながらも強烈な力で迫ってくる。本作は2012年8月、NHK版が「チャロ! 立入禁止島に住む」として放映された。
【監督のことば】バングラデシュとの国境に近いインドの小さな村パラシュプールは、私の目の前で消えてなくなった。木々、建物、道路……。すべてのものが水の墓場のなかにゆっくりと姿を消し、人間だけが残された。地元の人にはガンガーと呼ばれるガンジス川に浸食されたからだ。
「このあたりのガンガーはまるで蛇だ」と、村人たちは言った。ガンガーはインドの女神であり、天から流れてくる聖なる母だと信じられている。なぜ彼らは、母なるガンガーを蛇と呼ぶようになってしまったのか。
彼らは言う。「ファラッカダムが建設されてからだよ。川は首根っこをつかまれた蛇になってしまった。蛇はもがき苦しみ、自由になろうとして暴れまわる。そして大昔からずっと人間に与えてくれたものを、今度は奪っていくんだ」。
そして年月が流れ、川は奪ったものを返してくれた。水没した小さな島が、また中洲として姿を現した。その脆弱な島はチョールと呼ばれる。本来ならその島は、川の浸食によって住む土地を失った人々のものになるはずだ。しかし、島は国の決まりで立入禁止になっている。国境線がちょうど島の上を通っているからだ! 新しい希望の島チョールは、入ることのできない島になった。
私はチョールでルベルという少年と出会った。彼はインドからバングラデシュに米を密輸して生計を立てている。「国境の位置は決められるけど、川の位置は決められないよ。川は動き、そして川の動きに合わせて人間も動く」。彼は笑いながらそう言った。
映画をつくるということは、他者の人生を覗き見ることだ。しかし、撮影する側も、映画をつくるという行為から何らかの影響を受けると私は信じている。軍から特別な許可を得てチョールに入った私は、どこか奇妙な立場から出来事や感情を目撃した。他者の人生を覗いているときの私の視線は、この経験によって変化した。その変化を観客と共有したいと思う。
チョールの地でくり広げられる人間と自然とのかかわりは、夜も昼も私の頭から離れず、この物語に結実した。