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インターナショナル・コンペティション



審査員
足立正生
ラヴ・ディアス
ジャン=ピエール・リモザン
アミール・ムハマド
ドロテー・ヴェナー

「境」を越えていく真摯なまなざし

 さまざまな種類の映像が多種多様なメディアにあふれる現代において、もはやフィクション/ノンフィクション、ドキュメンタリー/劇映画といったジャンル区分は、形式的かつ概念的なものでしかない。映像とは、映画とは何か。新旧の記録用機材から何を選び出し、対象といかに向き合うのか。結果として得られた素材をいかに見る者に提示するか。今、何を「リアル」と捉えるべきなのか。

 本プログラム、インターナショナル・コンペティション(IC)は、YIDFF誕生時から四半世紀続いてきた看板プログラムだが、ここで選ばれ、上映されてきた作品群は、偏狭なジャンル区分にとらわれず、上記のような根本的な問いに対して真摯に向き合った作品ばかりである。そしてまた今年、そのラインアップに新たな15本が加わった。

 自然災害や政治・社会状況の変化といった厳しい環境のなかで、それでもなお、あるいはそれゆえに、故郷や土地の記憶に深く結びついた日常を生きる人々の姿を捉えた作品、家族のルーツや歴史を、映像を通してたどり直す作品、映像/イメージが氾濫する日常に生き、翻弄される人間の弱さや矛盾を見つめた作品など、現代社会の現実を浮かび上がらせる作品ばかりである。国家の政策や災害に否応もなく巻き込まれる人々の生に、新鮮かつ大胆なアプローチで迫った若手作家の秀作がある一方で、新作で新たな境地をひらいたベテラン作家もそれぞれに存在感を見せている。

 また15作品のうち6作品がアジア圏の作家によるものであるのも、この地域の作家の育成に尽力し続けてきたYIDFFらしい構成と言えるだろう。とりわけ今回、2009年のアジア千波万波部門で上映された前作で小川紳介賞を獲ったキム・ドンリョンは、今作『蜘蛛の地』で共同監督パク・ギョンテとともにICデビューを果たし(韓国出身作家としても初)、1999年に同じくアジア千波万波部門で上映経験をもつ台湾の羅興階(ルオ・シンジエ)と王秀齢(ワン・シウリン)の二人も、今回満を持してICでの上映を決めた。これら2作を含むどれもが、互いに引けを取らぬ、完成度の高い野心的な作品ばかりである。

 この刺激的でユニークなラインアップは、例年通り、一般市民を含む10名の選考委員が、4〜5ヶ月にわたり昼夜となく総計1,153本もの応募作品を分担して見続け、議論を交わし、難しい選択を経て決まった15本である。その間文句も言わず日々黙々と選考作業に邁進してくださった委員全員に、この場を借りて心よりの感謝を申し上げたい。またぜひ観客の皆様には、2013年のヤマガタのこのメインプログラムで、世界の映像芸術の現在と、ジャンルや国家、社会の「境」を軽々と越えていく作家たちの気概を感じ取っていただければ幸いである。

畑あゆみ(プログラム・コーディネーター)