足立正生 監督インタビュー
溶けた世界と対峙する
Q: 今回初めて山形国際ドキュメンタリー映画祭に参加されたということですが、実際に参加してみてどのような印象を受けましたか?
AM: 僕は、この映画祭に参加することが決まったとき、いわゆるアジアを中心とした若い人たちの、現実と対面し、それを探り、何かを発見して、それを表現にして持ってくるという、新しいエネルギーと出会うことがとても楽しみだったんですね。
今回、僕が審査で関わったインターナショナル・コンペティション部門にもその気配がある作品があり、非常に嬉しかったです。インターナショナル・コンペティション以外の作家でも、そのようなエネルギーを持った人たちと出会い、話をすることができました。また、公式カタログの中にも書いてありますが、映画というフィールドに膝詰め談判で創った側と観る側がいつも話し合える環境を持ち込まないとだめだと、小川紳介監督と話していました。山形国際ドキュメンタリー映画祭にはその環境がある。地方の空間と時間をまさに映画コミューンにできていると思います。そこがとてもいいですね。ただ、ちょっと大きくなりすぎているから、観たいプログラムが観られないということがありますね。観たい作品がたくさんありましたが観られませんでした。
Q: 今年のインターナショナル・コンペティションの作品にはどのような傾向が見られましたか?
AM: 原点的な意味でのドキュメンタリーっていうのは、今こう生きていることを、都合のいい記憶のシステムだけでやるのではなくて、きちっと問題に正面から対面し、それに切り込んでいく。それで発見したことを記録していく、あるいはメッセージにしていくということだと思います。しかし実際問題として、世の中が全部溶けていっているように、映画っていう媒体は、テレビとか、ウェブサイトとかが、全部溶け込んでいっているわけですね。ドキュメンタリストが“ドキュメント”として作品を提出しているけど、カメラの前に立ったら、僕だって今そうですが、もうこれは役者になっているわけです。リアリティとは関係ない、ある種の被写体としての撮る側のイメージと、ドキュメンタリーに出演する人との関係は、もうドラマと変わらない関係性になっているんですね。だからドキュメンタリーとドラマを範疇分けする話も、僕は変なものだと思っています。だっていくら事実を切り取っても、それを編集したら事実関係とは違う作者の側のメッセージになってるわけです。
そういう視点でインターナショナル・コンペティションの作品を見ると、取材対象の人たちが俳優になるというところまでやっている。ドキュメンタリーもカメラと俳優の関係になっちゃっているということを、作家自身が自覚しながら、それを逆手に取って撮られている作品が一般的になっているのだなと思いました。そのことは審査員の間でも最初から話されていましたね。そして、そういった新しいことをやってるんだから失敗は当たり前なわけでね、その失敗を恐れたら実験する意味がないじゃない。だからそういうところでもっと大胆にやったらいいのにと思います。
Q: 山形国際ドキュメンタリー映画祭を今後より良くするためには、どうしたらよいと思いますか?
AM: 僕はインターナショナル・コンペティションの15本を観たわけだけど、1,000本以上ある作品の中の15本だから、途中で本当にこの15本が良いのか疑ってしまう。もしかしたらこの15本には選ばれなかった中に、僕が大好きだと思う作品があったのではないかと思ってしまうんですね。なので、1,000本から15本に絞るプロセスをぜひオープンにすべきだと思います。その過程も、膝詰めで創る側と観る側が話し合うヤマガタらしい良さになるのではないでしょうか。
Q: 様々なものが溶けている現代において、今後のドキュメンタリーはどうあるべきだと考えますか?
AM: さっき述べたようなドキュメンタリーの原点に回帰するのと同時に、もうドラマだろうがドキュメンタリーだろうがみな同じ、この溶けていってる世界に対してどう向き合うのか。そうすると、方法的にはもっと自由に検討して、自分の方法を掴んだり実験したりしないといけない。若い人たちに声を大にして言いたいのは、新しい方法も、課題に対する肉薄も、失敗を恐れず大胆であれということです。
そしてそこへもう一度ドキュメンタリーってなんだというふうに問われたらもう、「この現代をどう告発するのか」という一点以外になくなるわけですね。それはドラマだってそうですよ。時代と向き合い、その悲惨な現代の中で生きている人間像を描くことがドラマだとするならば、そういう意味ではドキュメンタリーとドラマとの違いはもうないでしょう。それがもう成立しはじめているから、むしろその曖昧な「溶け合ってる」というような表現じゃなくて、そこに新しい方法なり考えなりを提案していくことがドキュメンタリーの仕事だと思います。
(採録・構成:柴崎成未)
インタビュアー:柴崎成未、野村征宏
写真撮影:楠瀬かおり/ビデオ撮影:楠瀬かおり/2013-10-16