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アジア千波万波


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アジア千波万波 特別招待作品 | 中国

アジア千波万波 特別上映 | 中国

アジア千波万波 審査員
フィリップ・チア
崟利子

 ある友人のことを考えている。私が長期滞在していたフィリピンから帰国する数日前に、心臓発作で急死してしまった。あれからすでに3ヶ月以上が経つ。人の死は、訪れるまで、その時がいつなのかは誰にも分からない。痛いほどそれを思い知らされた瞬間だったが、出会いがなければ、別れもないわけなのだったと、はたと気付かされる。

 人の生には限りがあり、死は必ずやってくる。選考の過程で、そんな当たり前のことが頭のなかをめぐっていた。そこに人間の生が存在する限り、映画には死もまた、確実に投影される。当然ながら、映画に登場する人、それを作った人、そしてそれを見る私、私たちもいつか死ぬ。しかし、人は死んでも、映画は残る、残るはずなのだ。だからこそ、その痕跡を残すことが、一つの生の、映画製作の営みになるのだろうと思う。

 今回ほど、アジア千波万波の選考の試写をするなか、応募された作品それぞれに私自身が救われたと思う年はなかった。もちろん、選考は一人で行うものではなく、選考委員の協議によって最終的にラインアップを決定するのではあるが、作品を見る時間は、私と作品(そこに映し出される作者)との出会いの空間が流れる。別れを憂う前に、その人との出会いの偶然(あるいは必然)、その人との記憶、ひいては、作品との出会いと別れに想いを馳せた選考だった。

 亡くなった友人は、1989年の映画祭に登場して以来、何度もヤマガタに参加しているロックスリーの盟友だった。ドキュメンタリーと劇映画の作り手でもあり、俳優、画家……多くの作品を残して逝ってしまった。彼ら二人に「参加」してほしくて、アジア千波万波Tシャツをロックスリーにデザインしてもらった。友人も、これまで過去にアジア千波万波で上映した作品群も、きっと星のように、空の果てから映画祭を見守ってくれている。別れを悼むと同時に、改めて、人や作品との出会いと別れ、残された記憶のことを思う。

 今回も映画祭の開催にあたり、ご協力いただいた翻訳者や通訳者、字幕制作および映写スタッフ、多くのボランティアの方々、そして応募してくださった製作者の皆さんに感謝します。この短い一週間のなかで、観客の皆さん、ゲストたちとの間にも多くの出会いが生まれ、また、別れも訪れますが、その共有できるであろう時間に乾杯!

若井真木子(プログラム・コーディネーター)