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日本に生きるということ
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     近年、在日をテーマにした劇映画やドキュメンタリーが非常に目立つようになった。しかし映画の歴史を振り返ると、在日に関する映画は以前からたくさん存在し、多くの在日映画人が活躍してきたことに気付かされる。この特集では映画と在日の関わりを中心に、日本映画のみならず海外の視点から描かれた作品も集め、もうひとつの映画史を検証するものである。今年は韓国・北朝鮮にとって解放60年の記念すべき年であり、日本の戦後60年を考える意味でも重要な年である。こうした作品を一堂に会して見直すことは、正しい歴史を知るためにも有意義なことではないだろうか。

     映画史に登場する日夏英太郎=許泳(ホ・ヨン)、金井成一=金学成(キム・ハクソン)、井上莞=李炳宇(イ・ビョンウ)、宇部敬=金順明(キム・スンミョン)などは在日映画人の一部に過ぎないが、ここでは彼らに関する作品を集めてみた。日夏英太郎について描いた『三つの名前を生きた映画人』、金井成一について描いた新作『2つの名前を持つ男』、今年韓国でその発見が話題になった『家なき天使』など映画研究者必見の作品群である。

     在日作家による作品はできるだけ網羅したつもりである。女性作家の朴壽南(パク・スナム)による在日被爆者を中心に追った『もうひとつのヒロシマ』、呉徳洙(オ・ドクス)による『指紋押捺拒否』と特別招待作品として上映する『在日』、呉充功(オウ・チュンゴン)による『隠された爪跡』、辛基秀(シン・ギス)による『解放の日まで』、康浩郎による『1968大阪の夏 反戦の貌』、金徳哲(キム・ドッチョル)らによる『渡り川』など。若い世代の作品からは、金森太郎こと金昇龍(キム・スンヨン)による『Tibet Tibet』、金聖雄(キム・ソンウン)による『花はんめ』、松江哲明による『Identity』、在日中国人作家の任書剣(にん・しょけん)による『北朝鮮の夏休み』など従来の告発型ではない多彩な作品を取り上げた。

     日本人作家による作品も見逃せない。盛善吉による朝鮮人被爆者の記録『世界の人へ』、岡本愛彦による『世界人民に告ぐ!』、前田憲二による長編大作『百萬人の身世打鈴(シンセタリョン)』、布川徹郎、井上修らが在籍したNDU(日本ドキュメンタリスト・ユニオン)による『倭奴(イエノム)へ』『アジアはひとつ』に最新作『出草之歌』を加えた。

     この映画祭は、故・小川紳介の提唱により特にアジアを視野に入れた映画祭である。小川は生前、山形の大蔵村に嫁いだフィリピン花嫁をテーマにしたドキュメンタリーを準備しテスト撮影を始めていた。その未完のフィルムが一度だけ上映されたことがあった。1992年の「小川紳介とお別れする会」で上映された『肘折物語』である。小川を偲んで映画祭のオープニングで再び上映することにした。

     日本未公開の作品もできるだけ加えた。韓国映画の『望郷』、『あれがソウルの空だ』、北朝鮮映画の『春の雪どけ』、日本映画では李學仁(イ・ハギン)の『赤いテンギ』である。また日本人が見る機会の少ない朝鮮総聯映画製作所の劇映画『銀のかんざし』や記録映画、ニュース映画も見逃せない。

     在日とは通常、戦後日本に定住する韓国・朝鮮人を指すが、このプログラムでは一般的定義にとらわれず、幅広い意味で在日を捉えることにした。この映画祭を特徴づけるアジアの視点を重視し、日本人のあり方を問うプログラムづくりを目指したのは言うまでもない。

     なお、フィルムや資料提供などにご協力いただいた韓国映像資料院と在日本朝鮮人総聯合会関係各位、それぞれの作家やご遺族に謝意を表するものである。

    安井喜雄