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私映画から見えるもの
スイスと日本の一人称ドキュメンタリー


私のすべて? ジャン・ペレ

PROGRAM A

PROGRAM B

PROGRAM C

PROGRAM D

PROGRAM E

PROGRAM F

協力:ヴィジョン・デュ・レール/ニヨン国際映画祭
 支援:スイス・フィルムズ、スイス・プロ・ヘルヴェティア文化財団
 後援:スイス大使館


 わたくし事で恐縮ですが……。

 こう切りだすと、きっと読者は引き込まれるだろう。「私」たちのプライベート・ストーリーは語り手の肉体と汗が起点になっているだけに、どれも説得力があっておもしろい。第三者の事情よりずっとリアルで身近、真実味を帯びて迫り、その物語が感情に訴えかける威力は強い。

 これを利用して、作者が画面に登場したり事実解明をしていくテレビ番組やルポルタージュが花盛りだ。観客を引き込むための映画づくりの仕掛けとしての「一人称」は今や常套手段となっている。

 この特集で集められた私的ドキュメンタリーの醍醐味は、映っていることの真偽はさておき、一人称の視点が提示する有無を言わさぬ信憑性に立脚して、では何をどう語るのか。「私」というこの世にひとりしかいない固有の存在と、コミュニケーションを通して人とつながる中でしかいられない衝動との間で引き裂かれる自己。「本当の話だから、すごい」のではなく、映りこむ作り手の微妙な葛藤にこそ、映画の魅力が発見される。

 自己と他者の関係は国際交流の本質をもつく。スイスと日本の共同企画である本特集にはうってつけの課題と言えよう。

 「物語はall about me(私のすべて)なのだ」と完全武装した自己主張を鵜呑みにせず、「all about me?(私のすべて? 本当に?)」と疑問するところのほころびに、作り手の生きている世界の複雑さや矛盾やおもしろさが立ち現れるに違いない。


 この場を借りて、本企画の発起人でヴィジョン・デュ・レールのディレクター、ジャン・ペレ氏と、労を惜しまずに企画実現に向けて実務面を全面的にサポートしてくれたシャンタル・ブリュンドラー氏とザビーナ・ブロカール氏に深くお礼申し上げます。またスイス・フィルムズ、スイス・プロ・ヘルヴェティア文化財団、スイス大使館に大変お世話になりました。山形市国際交流課にはこのスイス=日本の文化交流事業にお力添えをいただきました。開催期間中のディスカッションが広く深く展開し、2006年4月のヴィジョン・デュ・レール映画祭に引き継がれていくことを期待します。

藤岡朝子、浅野藤子