インターナショナル・ コンペティション |
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飛行機雲(クラーク空軍基地)
Vapor Trail (Clark)-
アメリカ、フィリピン/2010/英語、タガログ語/カラー/Blu-ray(SD)/264分
監督、撮影、録音、製作:ジョン・ジャンヴィト
編集:ジョン・ジャンヴィト、エリック・ガリヴァー
音楽:ジョルジュ・アペルギス、ピエール・アルシャンボー、 ジョヴァンナ・マリニ、フランチェスコ・ドゥ・グレゴリ、ラフ・ディアス
ナレーション:ハワード・ジン、トラヴィス・ウィルカーソン
製作会社:トラヴェリング・ライト・プロダクションズ
配給:セントラル・プロダクションズ www.centralproductions.org
朝鮮、ベトナム、湾岸戦争を通して米軍の重要拠点だったフィリピンの基地跡地では、化学物質の土壌汚染による住民の深刻な健康被害が出ていた。苦しむ被害者と家族の話を丁寧に聞きとるだけでなく、支援する活動家の闘いとその壮絶な個人史にもカメラを向け、フィリピン現代史で繰り返される社会的不公正の構図と虐げられてきた者の尊厳に光をあてる。さらに19世紀末の対米戦争の歴史を写真で織り交ぜ、支配関係の根深さを分析する。土本典昭監督へのオマージュ。
【監督のことば】2006年の夏、私はボストンからマニラに飛んだ。それは私にとって初めてのマニラ訪問で、長編劇映画のための事前リサーチのための旅行だった。その映画の一部で、フィリピンで撮影した映像を使いたいと考えていた。しかし最初の数日を過ごしただけで、もう劇映画の構想はどこかに消えてしまった。クラーク空軍基地と、スービック海軍基地。フィリピンに残るこの2つの米軍基地の跡地とその周辺では、今でも何千人という住人が、環境汚染に苦しめられている。彼らの悲惨な状況を世界に伝えるために、4年間におよぶプロジェクトが始まった。
ほぼ1世紀もの間、この2つの基地はアメリカ本土以外で最大の米軍施設だった。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争では、重要な軍事拠点になった。その間ずっと、基地周辺では極度に緩い環境規制が適用されていた。1991年に米軍がフィリピンから撤退するときも、環境浄化の処置はほとんど行われなかった。数十年にわたって米軍が広大な土地を使用していたルソン島では、土壌も、湾も、森も、有害な化学物質やアスベストに広く汚染され、不発弾もいたるところに残されている。不幸なことに、長年にわたって基地で働いてきた人々や、米軍撤退後に移り住んできた人々などの、数多くのフィリピン人にはこのことは知らされていなかった。
本作の撮影中、別の映画『Wake(Subic)』の撮影も同時進行で行っていた(こちらは未編集)。『Wake(Subic)』でも、スービック海軍基地跡地の周辺における環境汚染と健康被害の問題を扱っている。『ボストン・グローブ』紙の記事に、次のような言葉があった。「米軍による環境破壊の被害を受けていない地域は、この地球上にほぼ皆無と言っていい。米国防省が最近発表したレポートによると、グリーンランド、スペイン、日本、パナマ、イタリア、アイスランド、イギリスの各国に存在する米軍基地で環境問題が発生している」。だから、この二枚屏風のような2作に副題をつけるとすれば、「たとえば、フィリピンの場合」となるかもしれない。
ジョン・ジャンヴィト 1956年、ニューヨーク市スタテンアイランド生まれ。マサチューセッツ州ボストンに拠点を置く映画監督、教師、キュレーター。長編フィクション作品に『The Flower of Pain』(1983)と『The Mad Songs of Fernanda Hussein』(2001)がある。後者はブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭審査員賞、第1回ローザ・ルクセンブルク賞、ニューイングランド映画&ビデオ祭最優秀インディペンデント映画賞を受賞。ドキュメンタリー映画『Profit Motive and the Whispering Wind』(2007)は、全米映画批評家協会の実験的作品賞、アントル・ヴュ(ベルフォール国際映画祭)長編ドキュメンタリー賞等を受賞。書籍『Andrei Tarkovsky: Interviews』(University Press of Mississippi)の編集も手がける。1990年代にボストンの映画館ハーバード・フィルム・アーカイヴで上映プログラマーを5年間務めた。 |