インターナショナル・ コンペティション |
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審査員 |
日は成した
Day Is Done-
スイス/2011/スイスドイツ語/カラー/35mm/111分
監督、撮影:トーマス・イムバッハ
脚本:トーマス・イムバッハ、パトリツィア・シュトッツ
編集:ギオン・レト・キリアス、トム・ラベル
音楽、音響設計: ピーター・ブレイカー
楽曲:ビル・キャラハン、ボブ・ディラン、コナー・オバースト、 シド・バレット、アルファヴィル、ジェーソン・モリナ、 ジョン・フルシアンテ、ジョルジュ・ヴェーヌ
製作:アンドレア・シュタカ、トーマス・イムバッハ
製作会社、配給:オコフィルム www.okofilm.ch
郊外に聳え立つ煙突、飛び立つ旅客機、階下の路上で見られるさまざまな出来事など、アパートのベランダ越しに眺められた風景が15年以上の歳月にわたり記録される。その一方、留守番電話に残されたメッセージが監督の私的生活を断片的に物語る。時にコマ落としで加速される日常風景の映像と、監督の生活を示唆する声。両者は時の流れの中で重ねられて世界のひとつの断面を浮き彫りにする。タイトルはニック・ドレイクの歌曲による。
【監督のことば】『Ghetto』(1997)の撮影中、私は年代物の35ミリカメラをオーバーホールした。映画フィルムを使って、完全にひとりきりで撮影するためだ。やがて私は、チューリッヒにある仕事部屋からの景色も撮影するようになった。鉄道駅の裏手に位置し、工業地帯に囲まれたこのロフトを仕事部屋にして、もう20年以上にもなる。ここに来た当初から、窓の外に広がる見事なパノラマと、1日24時間、つねに変化する光と天候が生みだす映画に私は魅了されていた。この景色を撮影したいという衝動を抑えることはできなかった。私は誘惑に屈服し、カメラを手に、まるで風景画の中に入っていくように、窓の外に広がる景色に足を踏み入れた。
私にはもう1つの習癖があった。それは、留守番電話に残されたメッセージの収集だ。当時はまだ新しかったこの媒体に私は夢中になった。そして後に、留守番電話のメッセージは、時の経過の目撃者でもあることに気がついた。父が末期の病に冒されたことや、息子の誕生など、私の人生の重要な出来事がすべて記録されている。またそこには、子どもが生まれると同時に関係が崩壊に向かった、ある男女の物語も残されている。留守番電話のメッセージから浮かび上がる物語は、実存主義的なテーマを反映していると言えるだろう。誕生と死、成功と挫折、そして別離と再出発。
見られたものと、聞かれたもの。この2つの素材をどうやって組み合わせようか。何年も悩んだ末に、映像と語りの構造がだんだんと形になっていった。そして、主人公の「T. 」という人物が誕生する。T. の存在のおかげで、私自身の自伝的記録を純化し、一編のフィクションのような物語にすることができた。この映画にはたくさんの空白がある。その空白をそれぞれの観客が、独自に埋めることになる。T. が言わなかったこと、成さなかったことに、人々は挑発されたり、好奇心をかき立てられたりするだろう。
トーマス・イムバッハ 1962年生まれ。チューリッヒに拠点を置くインディペンデント映画作家。『Well Done』(1994)と『Ghetto』(1997)の2作で、シネマ・ヴェリテ的なカメラワークとコンピュータを駆使したテンポの速い編集を組み合わせた、独自の音響映像スタイルを確立する。制作は自身の制作会社Bachim Filmsで行っていたが、2007年に監督でプロデューサーのアンドレア・シュタカと共同で制作会社のオコフィルムを新たに設立。スイス国内と海外で数多くの映画賞を受賞。2001年ロカルノ国際映画祭に出品された『Happiness Is a Warm Gun』、『Lenz』(2006)、『I Was a Swiss Banker』(2007)の長編フィクションは、すべてベルリン国際映画祭でプレミア上映された。全作品が劇場公開されている。 |