インターナショナル・ コンペティション |
---|
審査員 |
ネネット
Nénette-
フランス/2010/フランス語/カラー/35mm/70分
監督、脚本、編集:ニコラ・フィリベール
撮影:ニコラ・フィリベール、カテル・ジアン
録音:ジャン・ユマンスキー、ジュリアン・クロケ
音楽:フィリップ・エルサン
製作:セルジュ・ラルー
製作会社:レ・フィルム・ディシ
配給:ロングライド
パリの植物園で飼われているボルネオ生まれのオランウータン、ネネットはご高齢の40歳! 人気者の彼女は、誰よりも長く植物園に住んでおり、ガラス越しに自分の檻を通り過ぎる何百という老若男女に見つめられる毎日を過ごす。そんなネネットとオランウータンたちの映像に、園のスタッフや訪問客の声がオーバーラップし、いつしか観客もネネットに見つめられる70分を体感する。
【監督のことば】この映画の企画はちょっとした偶然から生まれた。その日、私はパリ植物園付属の動物園に散歩に出かけていた。何人かの見物客がオランウータンの一挙手一投足を大きな声でコメントしていた。最初、中二階あたりの高台に陣取ったネネットは地上の喧噪など意に介せずといったふうに見えた。しかし注意深く観察を続けるうち、素知らぬふりをしながらも実際彼女は人間が提供するスペクタクルを1分たりとも見逃していないことに気がついた。その瞬間、本作のアイデアが誕生した。
ガラス仕切りの向こう側にいるネネットは鏡だ。我々が自己投影する1枚の鏡。私たちは自分の感情、意思、もしくは考察をネネットに重ね合わせる。彼女について語りながら私たちは自分について語る。彼女を見つめながら、自分たちもタブローの中におさまる。フローベールが「ボヴァリー夫人は私だ!」と叫んだように、私もまた「ネネットは私だ」と言うだろう。ネネットはあなたであり、私たちなのだ。しかし、私たちは決してネネットが考えていることを知ることはできない。考えているのかさえわからない。謎は謎のままだ。結局のところネネットは理想的な相談相手である。彼女はいっさい秘密を漏らさない。
本作は視点と表象に関する映画である。シネマのメタファーであり、とりわけ実 録・捕獲装置としてのドキュメンタリーのメタファーである。というのも他者を撮影する行為はいつも、一定のフレームに被写体を幽閉、監禁し、空間と時間の中に固定化することだからだ。
ニコラ・フィリベール 1951年、ナンシー生まれ。19歳のときにルネ・アリオ監督の『Les Camisards』の撮影に見習いとして参加。78年、フランスの大企業の社長たちを撮影したテレビドキュメンタリー『巨匠の声』で監督としてデビューするが放送禁止となり、6年ほど映画を発表できなかった。89年の『パリ・ルーヴル美術館の秘密』で、さらに国際的な名声を獲得。その後、いずれも高い評価のドキュメンタリーを数々発表し、2002年の『ぼくの好きな先生』はフランスドキュメンタリー史上の記録となる200万人動員の大ヒット。世界中の観客が新作を待ち望む名匠としての地位を確立。2003年には、フランス外務省のサポートにより欧米各国でレトロスペクティブが行われた。その他の作品に『音のない世界で』(1992、YIDFF 1993)、『すべての些細な事柄』(1996)、『かつて、ノルマンディーで』(2007)など。 |