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デジタル技術の時代におけるドキュメンタリー(7/7)

7. 保存・復元


岡島尚志(国立フィルムセンター)

DB:フィルムの保存と復元の分野においてデジタル技術がどう使われていますか。

岡島尚志(以下OH):フィルム・アーカイヴは今はデジタル技術なしには成り立たなくなりつつあり、それをどういう形で考えるか情報収集をしているところです。すべてのことについて実験段階ですからね。国際フィルム・アーカイヴ連盟(FIAF)の会議や研究会に出席して「今どこまで可能なのかを探る」と同時に「どういうことをやってはいけないのかを考える」、こちらはいわば倫理の問題ですけれども、話し合っている最中です。デジタル技術は進歩の仕方が速いけれど、倫理の問題の重要性はむしろ、技術のレベルが上がればあがるほど、大きくなっています。

 復元はアーカイヴにとって重要な仕事ですけれど、私たちフィルム・アーキヴィストは、原則としてエンハンスメントをしてはいけないという立場にたっています。例えば日本のSF映画を見たときに、空飛ぶ円盤の上に糸が見えたとする。これを復元するときに、糸を見えなくしてはいけない、という立場です。それから、録音技術がよくなかった時代の映画を、ビデオで発売する時にいい音にするのは可能ですが、それも基本的にはやってはいけないという立場にたっています。

 日本で世間が「デジタル」って方向に動き始めると一気で、いろんなところにあまりに急速に影響が出すぎると思うんです。例えばフィルムを取り巻くインフラが非常にはやく衰退する可能性を秘めている。現像所などがフィルムに関して新しい投資をしなくなる可能性があります。それから、日本は自前で映画フィルム産業をもっている珍しい国で、そのフジが日本にあるのは非常にありがたいことで、フジのような大きな会社が35ミリフィルムの生産について消極的になったりすると、映画文化の保存に関して非常に大きな影響が出てくるわけです。

 1995年、ロサンゼルスのFIAF会議で、ディズニーの幹部の一人が「これから10年の間に、フィルムからノンフィルム、アナログからデジタルへの急速なシフトが起きて、なおかつこれから100年後にはフィルムは残っていない」とかなり挑発的な話をしたわけです。「デジタルは今までのものとは違うんだ。デジタルは本当にデジタルだから、バイナリーのインフォメーションはなくなるわけがないんだ、それは絶対だ」という議論を推し進めた。デジタル情報は0と1なので、どうやったって劣化しない。でもそれを保存しておくものの耐久性が、実は問題なんです。たしかにフィルムは問題が多いけれど、忘れてもらって困るのは、フィルムは少なくとも100年間もっている。今後情報をデジタルで保存するメディアの劣化について、誰も保証できないし、もしもたないことが分かった時のデータトランスファーはフィルムよりは圧倒的に難しいんじゃないか。100年前の映写機は、今でも直せば使えますが、30年前のビデオテープは、誰も直せないし、直したらとんでもないお金がかかる。

もうひとつの理由は、フィルムをスキャンして、デジタルドメインの中で作業をすると、現在のフォトケミカル技術で復元するよりいいものができる。なおかつリアルタイムで、モニターを見ながらできる。そして次にデジタルから出力しますが、出力先がフィルムであることが大事です。出力先がビデオテープだったら、人間は妥協して、最後にできたものをテレビで見たときにきれいだと思うくらいの技術、解像度しか求めない。最終的なアウトプットが35ミリであるならば、もとのフィルムと比べて傷も消え、色もきれいになったということが分かる。デジタル技術は「フィルム→デジタル→フィルム」というラインからさかのぼって考える必要があります。

DB:フィルム以外の保存はどのようにしていますか。

OH:映画というのはひとつの体験だから、体験の周りにあるものは、どんどんデジタル技術を使うべきです。第一、アーカイヴというのは矛盾した存在で、本にしろ映画にしろ見せれば傷むんですよ。保存ということを考えれば見せない方がいいに決まっているけれど、見せないわけにはいかない。古典的な使い方としては、本が2冊あって、1冊は見せる用、もう1冊は保存用。それだってお金がなければできない。そういう時に、いたみやすい本について写真版をとって見せたり、インターネット上にのせることはやっていかなければなりません。私たちもその方向に進んでいます。

DB:インターネットやEメールは、アーキヴィスト同士の情報収集・交換や、若いアーキヴィスト養成に貢献していますか?

OH:インターネットは本当に素晴らしいものだと思います。ただ、世界を英語化してしまうものですよね。〔読解するのに〕日本人は時間もかかるし、みんな同じ文化にしようとする、ある種文化帝国主義的なものだという感じがします。

 養成に関しては、インターネットを通じたトレーニング、これはFilm Archives On Line 〔ファオル、www2.iperbole.bologna.it/faol/〕というサイトがヨーロッパで準備されています。映画保存とは何か、から始まるサイトが作られつつあります。

DB:デジタル技術をいかに使うかは、結局は人間の要素が深く関係しているという感じを受けます。

OH:ジャン = リュック・ゴダールが、映画の最終的な特徴は「運ぶこと」だと言っている。『右側に気をつけろ』という映画で、ゴダール自身が映画を運ぶんですよ。これが映画なんです。運ばなくなったら映画ではなく、別のものなんです。運ぶというのは重力が関係してくる。その〔映画を〕運ぶ、〔人間が〕通うっていう文化形式を保持することが大事だと思います。生き残る映画祭っていうのもフィルムを運んでいるわけで、そこに人間も足を運ばなければいけません。