2. 字幕製作
設楽光明(ホワイトライン代表)
DB:近年、字幕は直接フィルムに焼かない形での製作が盛んですね。
設楽光明(以下SK):マウントスライドとプロジェクターでやっていた時代から、アナログの中でも少しずつ進歩して、8年前くらいはロール式スライドでしたね。35ミリの高速カメラを改造してアニメーションカメラみたいにコマ撮りを可能にして、タイトルをワンカットずつ撮影していた。1本の映画に1000枚のタイトルがあると、間の黒味なり何なりを入れたら、2000回くらいシャッターを切っていた。スライドって結局手間がかかるでしょ。工程作業が多いし、コストもばかにならないし、時間もかかる。そういう時代から比べると、これだけパソコンが普及していればEメールでデータのやりとりもできるし、ある程度のプログラムが書けて、何をやりたいのかっていう目的とノウハウがしっかり分かっていれば、システム開発もできないことはない。僕と知り合いで1年半くらいかけて開発したシステム(JS01)は、バグを取りながら、この機能も足そうとかやりながらステップアップして、今の6バージョン目があるわけです。
99年の山形映画祭で使ったのは、まず誰でも扱えて、安くて、まあノートパソコン1台とプロジェクター1台あればどこでも出せるシステム。ずれたら補正もきくしね。パソコンを知らない子が扱うにはこのキーとこのキーとこのキーだけを押せば済むんだよ、っていう単純な構成で、4時間くらいのレクチャーと、本番前にちょっと復習をして、終わり。だから、ベース面ではデジタルって呼んでもいいかもしれないけど、操作面ではほんとにアナログだと思う。なぜそんなにアナログにこだわるかっていうと、デジタルってそもそもあんまりいいことじゃないと思う。怖いんだよね、何でも機械任せでしょ。一度暴走したら歯止めが利かない。
他にも、投影字幕システムは存在しているんですよ。映写機とリンクして同期信号をとって、1フレームの狂いもなく出そうという考えのもとに開発したシステムや、カンヌ映画祭で大々的にやっている、LEDを使った発光掲示板タイプ。ただ、どれもめちゃくちゃコストが高い。
DB:字幕をプリントに焼く場合の、デジタルの導入は?
SK:プリント(フィルム)の場合は、従来の「パチ打ち」〔翻訳された文字を、カードライターが一文字一文字手で書き、カードを銅版に起こしてからフィルムに薬剤を塗布し、機械でガチャガチャと文字を打つ方法〕に代わって、レーザー方式が主流になってきている。この方式はコンピュータから出力されたデータがガスレーザーにつながっていて、ひと筆に近い形で書いていく。一般的に使われている丸ゴシ系のフォントタイプだと味気ないって言うんで手書き文字のフォントもあるんだよ。
DB:日本語以外の字幕をつける時のプロセスは一緒ですか。
SK:多言語に対応するためには、書体だけ持っていればすぐに出力できる。韓国語も、中国語も、ドイツ語もフランス語も、全部打てる。翻訳者からあがってきた原稿が文字化けしていることもあるけど、それを改善するソフトもあるんだよね。文字って、裏を返せばコードだから、そのコードの番号を調べれば何が化けているか、化けている文字がアスキーコードで何に対応しているか分かる。それを文字に置き換えるソフトもあるよ。
DB:字幕の入るメディア自体もデジタル化していますが、フィルム以外に字幕を入れる場合は?
SK:ビデオの場合は、テキストを画像に生成し、MOに圧縮し書き出す。その際各タイトルにタグを付ける。それをスタジオでミックスさせるやり方をしますけど、DVDの場合はエンコーダーというハードを使い、オーサリングします。 ビデオとは根本的に考え方が異なっていますね。海外からのDVD用の文字制作などは文字にエッジを加工してから提供していますし、MOを使わないでダイレクトにテキストから画像処理をする方法もありますね。最近ではデジタル回線を使って字幕出している所もあるし、まあ電話みたいなものですよ。字幕も英語字幕、独語字幕、日本語字幕…って、どれを出すか選択できる。DVDはこれから主流になるでしょうね。
DB:字幕製作が安くできると、数をこなさなきゃいけない矛盾がありませんか?
SK:あるよ(笑)。でも価格破壊も大事でしょ。この世界でも働きたい子たちがたくさんいるわけだけど、翻訳者も育たないのが現状でしょ。それだったら価格破壊を起こして仕事が沢山入って、若い子たちが活性化できる場になればいいと思う。今回の山形映画祭では、新しい翻訳者さんが大勢活躍したんだよ。
映画監督も同じで、昨日まで監督なんて呼ばれなかった人が海外の映画祭で引っ張りだこっていう人も多いけれど、自分の力で何とか海外エントリーしようという人たちは、やっぱり金銭的に苦労している、だけど字幕を付けないといけないし…。「お金ないけど、字幕付けられませんか」って話しがよくありますね。そんな時は破格で字幕を付ける。全然儲からないけどね(笑)。
デジタルが怖いって言ったけど、デジタル化が進んで喜んでいる人たちも結構いるでしょ。聴覚障害を持つ人にとっては、多くの作品に字幕が付いたり、頬骨の振動を利用したサウンドシステムや個々に調整が可能な特殊なヘッドフォンもあって、劇場で実験的に少しずつ使ってきてる。それもデジタルのおかげだと思うんだよね。