english
デジタル技術の時代におけるドキュメンタリー(6/7)

6. 美術館


バーバラ・ロンドン(ニューヨーク近代美術館(MoMA))
※この記事は米国『レオナルド』誌に掲載されたものをもとにしています。

DB:1997年から、デジタルアートの探求のもとに、中国、ロシアそして日本を旅行し、その時のリアルタイムの記録をインターネットで公開していますね。これらプロジェクトを始めたきっかけと、成果についてお話いただけますか。

バーバラ・ロンドン(以下BLアメリカン・フィルム・インスティテュートが行った1989年のビデオフェスティバルで、偶然シュー・リー・チャンに会ったことが、これらデジタルプロジェクトへの種をまいたと言えます。彼女は中国のアーティストによるビデオ作品をいくつか見せてくれたんだけれど、彼女のツンツンしたヘアスタイルと同じくらい革新的だった。こういった中国のアーティストたちが孤立から生まれてきて、現代芸術の動向を吸収していく時、彼ら、彼女らの将来は…と、ふと思ったんです。

 やっと1997年の9月になって、そうした私の好奇心を思いきり追求する機会をもらったんですよ。コンピュータ、カメラ、テープレコーダー、そしてケーブルをバックパックにつめた同僚1人と一緒に中国へ旅立った。私は学芸員としての旅の記録を、インターネットに掲載することを望んでいたんです。当時中国ではインターネットというのは未探検の領域で、北京の知り合いは私がデータをニューヨークに送れるのかどうか疑問視していました。

 行ってみたら中国にはコンピュータもたくさんあったけれど、きちんとしたインターネットの接続を探し出すのは難儀だった。でもほとんどの都市で毎晩のようにEメールのデータをニューヨークに送ることができたし、そのデータをデザイナーが受理したらインターネットに載せて、結果として私の調査日記となりました(www.moma.org/onlineprojects/stirfry、stirfryとは、炒め物料理のこと)。

 次の1998年の「インターニェット」プロジェクト〔InterNyet、Nyetはロシア語で「いいえ」の意味〕では、ロシアとウクライナに行ったんですが、その時はこちらももう少し準備ができていたんです。ビデオも取り込める最新モデルのコンピュータ、デジタルビデオ、DAT(デジタルオーディオテープ)レコーダー、そしてデジタルカメラを持っていったの。この「インターニェット」 (www.moma.org/onlineprojects/internyet)はビデオや映画のクリップが紹介されているし、録音と編集は私と同僚がすべて行ったので、二人はもう皆に「ロンドンさんのスタジオ」と呼ばれているんです。

 1999年12月、日本での新しいプロジェクト「dot.jp」(www.moma.org/dot.jp)が完成したの。日本は私が20年以上も前に、初めてアジア地域の調査をした国なんですけれど。

DB:デジタル技術の発展、特にインターネットは、美術館の学芸員としての仕事をどう変えていますか。

BL:70年代に学芸員としての仕事を始めた時、ビデオの活気というものに惹かれました。新鮮で、束縛のないものとしてね。今日のニューフェイスはデジタルアートですから、このようにまた最先端で働けるというのはとても光栄に感じます。

 インターネットは国際的、芸術は国際的、そしてMoMAは国際的です。インターネットを通して、MoMAは遠く離れた芸術家たちへも広くアクセスを提供しますし、このルートはもっと広げていきたいと思っています。もっと言えば、世界中のアーティストたちがインターネットで現代の流行を追うことができます。本当に、これは芸術が平等の機会を与える試みになるための手段と言えます。

 最初に中国への旅を始めた時、私は以前からずっとやってきたことを続けるつもりでした。つまり、外国へ行き新鋭の芸術家たちを発掘すること、スタジオを訪ね、資料を集め、情報を分別しながらすべてファイリングすることです。アーティストたちが成長すれば、彼ら、彼女らの作品を〔MoMAの〕展覧会にも加えていきます。

 この旅の間、私は自分の調査を公表したいと思いました。情報をファイリングして隠しておくよりも、私の発見の数々をインターネットで紹介すれば、他の学芸員や、中国の現代アートに興味がある人なら誰でも見られるからです。

 それに、私は学芸員の仕事を解明するのは斬新だと思ったんです。「stirfry」サイトを気軽に訪ねてもらえば分かりますが、ある調査を目的に旅をする学芸員に同行するという設定になっています。美術館の展覧会が開かれるまでの準備期間に何が起こっているのかを見るのは、とても勉強になることだと思いますよ。

DB:インターネットは、慣習的に存在したジャンルの別や空間の仕切りもないため、よく「壁のない」メディアと呼ばれます。「美術館」という概念に、インターネットは何か革新的見方や問題を投げかけているんでしょうか。

BL:インターネットは美術館に奇抜なジレンマを突きつけているの。オリア・リャリーナの「ウェブ・ギャラリー」は素晴らしく古風で、作品のひとつひとつを(リンクとして)インターネットのページに架けていて、まるで画廊の壁に作品がかかっていて販売中のような感じ。リャリーナは、彼女のサイトがインターネット初の伝統的な画廊なんだと主張しているんです。

 ウェブ・ギャラリーの作品がほしかったらお金を払うっていうのはシンプルに聞こえますよね。私もニューヨークに帰ったときは、作品のうちの1つくらい買おうと思っていた。でも、購入するというのはそんなに単純なことではなかったんです。

 MoMAがウェブ・ギャラリーの作品を買うと、どういうメリットがあるのか?今のところ、MoMAはウェブ・ギャラリーの作品を無料で使用してもいいことになっているの。「インターニェット」サイトにはウェブ・ギャラリーへのリンクがあって(www.webgallery.com)、そこにある作品は閲覧できるようになっている(こうやってURLを公表することは法的に認められているけれど、サイトの写真を雑誌に掲載する場合には、リャニーナの承諾が必要なんです)。

 このURLを辿っていけばオリア・リャリーナに行き着くけれど、彼女はMoMAが作品を紹介することを許可するかどうか、どんな条件で購入のプロセスは完了するのか、で頭を悩ませている。インターネットのアーティストは、アーティストが〔売買の対象になっている〕作品のすべての権利を先行して保持する、というような通例の売買方法を否定しているから。インターネット購入に関しての常用文は、まだまだラフな下書き段階ですね。

 現在製作され、インターネットに掲載されているデジタルアートは、長続きする可能性が高いです。いまようやく、芸術というメディアはすべてが記録されるようになったんです、最先端での奮闘から、将来の成熟までがね。そんなわけで待ちきれない私は、この将来がはやく見えてくるよう、拍車をかけているんです。