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    カレル・ヴァヘック


    -●審査員のことば

     ベドジフ・スメタナを愛してくれる人々が住む国を、初めて訪れることができてうれしい。私と故国が同じスメタナは、作曲家で“音楽家・哲学者”であり、彼のオペラ『ダリボル』は、私の小説的な映画の中に流れるテーマでもある。
     私の作品の主なインスピレーションの源のひとつは、禅宗の教えだ(皿洗いのような日常的な行為の中でも、宇宙とひとつになることができる、など)。

     1960年代に映画撮影技術を勉強していた時、思いがけず松尾芭蕉の俳句のチェコ語訳に出くわした。実は私の個人的なテーマも、精神性と、私たちを取り囲む現実との融合なのだ(人はみな、履き心地のいい靴を履いてみるべきだ。この映画祭においても、そうであることを祈っている!)。

     ここで、私の好きな芭蕉翁の句を引用させていただく。
     「もののふの大根苦き話哉」


    1940年生まれ。プラハ映画学院(FAMU)でエルマール・クロスに師事し演出を学ぶ。1963年に卒業制作『Moravian Hellas』で、当時チェコスロバキアだったストラージュニツェの伝統的な祭り行事を撮影する。ユーモアと知的な挑発を織り交ぜた独特の手法は、文化・政治体制の中で激怒憤慨、そして羨望を巻き起こす。一般上映が許されるには幾年もかかった。'68年、プラハのクラートキー映画撮影所製作で、同年の大統領選挙期間中の「プラハの春」の主人公たちを撮った伝説的ポートレート『Elective Affinities』を監督。'68年後の“正常化”過程と共に撮影所を去らざるを得なくなり、肉体労働の後、米国へ移住、'80年代に帰国してからは運転手として働く。'89年以降、現代チェコ社会についての壮大な4部作を完成させる。『監視員を…』はその完結編にあたる。1994年より、FAMUのドキュメンタリー映画学科で教鞭を執り、2002年には学科長となる。その作品とプロ意識は、数多くの若い作家たちに影響を与えている。2004年には『The Theory of Matter』を出版。この本は最新作『Záviš, the Prince of Pornofolk Under the Influence of Griffith's Intolerance and Tati's Mr. Hulot's Holiday, or The Foundation and Doom of Czechoslovakia(1918-1992)』の思想的な標石である。


    監視員を監視するのは誰? ダリボル、あるいはアンクル・トムの小屋への鍵

    Who Will Guard the Guardman? Dalibor, or the Key to Uncle Tom's Cabin
    Kdo bude hlídat hlídače? Dalibor aneb Klíč k Chaloupce strýčka Toma

    - チェコ/2002/チェコ語/カラー/35mm/242分

    監督、脚本:カレル・ヴァヘック 
    撮影:カレル・スラフ
    編集:レナータ・パジェゾヴァー 
    録音:リボル・セドラーチェク
    製作会社:チェコ・テレビ、ネガティフ S.R.O.
    提供:ラジム・プロハースカ・プロダクション
    www.karelvachek.cz

    1868年、ベドジフ・スメタナ作曲のオペラ『ダリボル』は、抑圧された民衆の支援を受けて蜂起した後、国王によって死刑に処されたチェコ人騎士の物語をもとにしている。プラハの国民劇場で歌手がこのオペラのリハーサルをする合間、ヴァヘックは現代チェコ社会の少数意見を代表する人たち(ある種の“役者たち”)を劇場空間に招き、そこに“収監”してカメラを回しながら話を聞く。演劇性、反体制闘争、悲劇といったモチーフと戯れつつ、1989年以降のチェコ社会を痛烈に批判する。