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    The Pier of Apolonovka
    Am Pier von Apolonovka

    - ドイツ/2008/ウクライナ語/カラー/ビデオ(HD)/85分

    監督、脚本:アンドレイ・シュヴァルツ
    編集:インゲ・シュナイダー
    撮影:マルクス・ヴィンターバウアー、スザンネ・シューレ、 エヴァ・ナイマン
    録音:アンドレアス・トゥルンバルト、ヘルゲ・ハック
    製作:エルンスト・ルートヴィヒ・ガンツェルト
    製作会社:Eikon
    配給:アウトルック・フィルムセールズ(ペーター・ヤェーガー)

    ウクライナのセヴァストポリ湾のひと夏。巨大な軍艦が停泊する前で、海底からスクラップを拾い上げて日銭を稼ぐ男たち、桟橋で飛び込みに興ずる若者たち、早朝からのんびりと泳ぐ老人たち。緩い開放感と停滞感が同居する小さな港町の日常が積み重ねられる。夏の匂いとともに、老若男女の生々しい姿が立ち上がり、刹那的に流れるひと夏を生きる人々の美しさに引き込まれる。



    【監督のことば】私は彼らをアホウドリと呼ぶ。アポロノフカ桟橋の人々だ。

     最初に彼らを見たときは、ルキノ・ヴィスコンティの『若者のすべて』を思い出した。彼らの顔は、映画と同じく気品ともろさをたたえていた。飛行はあっという間に終わり、最後には墜落が待っている。アポロノフカのアホウドリたちは、彼らが暮らすセヴァストポリをとりまく難しいジレンマの象徴だ。きらびやかな栄光には貧しすぎ、廃墟となるには活気がありすぎる。しかし、この少年少女たちは、街の欲望、そしておそらくは街の希望をも体現している。

     「羽がまるごと切り取られているのに、なぜ頑張って飛ぼうとするのか。さあ、飛びおりてしまえよ……」。この言葉を書いたのは2001年。当時は、資金集めと制作にこれほど時間がかかるとは想像もしていなかった。あのころ12歳だった子どもたちはもう18歳になり、とっくの昔にアポロノフカからいなくなった。中には、もう帰ってこない子もいる。たとえばヴィーチャ。私はヴィーチャの飛ぶポーズを見て、アホウドリというアイデアを思いついたのだった。ヴィーチャは17歳のときにヘロインの過剰摂取で亡くなった。

     長い過程を喜ぶ人もいるだろうが、私にとっては苦痛だった。そもそも、この映画のインスピレーションをくれたのは少年少女たちの顔であり、テーマではない。なのにアイディアしか残っていないのだ、とじきに気付かされた。または、形骸化した企画書だけが残ったと言ったほうがいいのかもしれない。幸いにも、桟橋と光は変らずにいてくれた。

     6年の時を経て、やっと撮影を始めるお金が集まった。私たちは、昔の顔を思い出させてくれる、新しい顔を探しはじめた。何百ものラフカットを経たある日、撮影のスザンネ・シューレが言った。「今の映画を見ると、企画書の初心を思い出す」と。彼女の言葉が正しいことを願っている。


    - アンドレイ・シュヴァルツ

    1955年、ルーマニアのブカレスト生まれ。1973年からドイツ在住。ハンブルク大学で美術史を、ハンブルク美術カレッジでヴィジュアル・コミュニケーションを学ぶ。1987年に助監督の仕事と、ラジオ局と新聞社の記者の仕事を始める。1991年から独立系監督、ドキュメンタリー作家として活動を開始。『Wasteland』(1997)がアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭のヨリス・イヴェンス賞、ホットドックス・カナディアン国際ドキュメンタリー映画祭のブルーリボン賞、シヴィス・メディア賞を受賞。その他『Tales from Leper Valley』(2001)、『Jailbirds』(2005)などがある。彼の作品はベルリン国際映画祭、ロカルノ国際映画祭、DOKライプツィヒ、クラクフ映画祭、ユーロドック・オスロなど、さまざまな映画祭で上映されている。