インターナショナル・ コンペティション |
---|
審査員 |
要塞
The FortressLa Forteresse
-
スイス/2008/フランス語ほか/カラー/35mm(1:1.85)/105分
監督、製作:フェルナン・メルガル
撮影:カミーユ・コッタヌー
録音:マルク・フォン・シュトゥレール
編集:カリーヌ・スーダン
脚本、編集協力:クロード・ミュレ
製作会社:クリマージュ
配給:アクセント・フィルム・インターナショナル www.accent-films.com
スイスの難民受け入れ施設。そこには亡命を希望する人々が、当局の決定を待つ間一時的に収容されている。様々な理由で故国を離れ、生きる場所を求めて世界中から流れ着いた者たちと、受け入れの是非を検討する職員たち。施設内に生まれるささやかな交流。日常的に“選別”が行われている場を見つめ続けることによって、今日の難民問題の現実を浮き彫りにする。
【監督のことば】中立政策が受け継いできた遺産として、難民保護はスイスの人道的たらんとする伝統の中心的な部分を占めている。人権と人道的な制度を重んじるこの国は、その歴史の長きにわたって、常にあらゆる生まれ、宗教、政治的立場を持った亡命者たちが向かう特別な場所だった。その難民保護政策の基礎となっているジュネーヴ条約が原則に掲げているのは、何人もその生命や自由が脅かされ、拷問や卑劣な懲罰を受ける危険のある国家へ送還されてはならない、というものだ。
しかし、近ごろヨーロッパのなかで、もっとも厳しい制限のついた法律のひとつが採択されたことで、長らく続いてきた人道主義の伝統に終焉を告げる鐘が鳴り響いているようだ。人道に適ったノアの箱舟は遠ざかり、私たちは、さながら先の大戦の暗黒時代、ユダヤ人の入国拒否に関して、連邦議員が「船は満員だ」のひと言でそれを正当化したころにまで舞い戻ってきてしまったかのようだ。
今回の難民保護法の改定では前提としてまず、移民は脅威で、もめごとを起こす、甘い汁を吸いに来る人物であると見なされている。形骸化させることで防御壁が設けられている。一方でEU圏外からの移住はどんな形でも許可しない (地球上の約95%の人間がここから排除されている!)とし、また一方で難民保護へ通じるすべを形骸化させている。外国人が国境を越えられたとしても、元の社会的立場にかかわらず、その人には自分が2等市民でありこの先もそうだろうと思わせておくように、すべてが仕組まれているのだ。
私は、この国で他者への恐怖を煽り立てたものが何なのか、保護区だったこの地を難攻不落の要塞に変えてしまったものが何なのかを理解したかった。そこで、高度に戦略的な場である、連邦政府による一時収容施設に視線を向けることにした。というのも、亡命者を入国させるか否かのふるいにかけるこの施設においてこそ、申請者の運命は決せられるからだ。選別が行われ、決定が下るのはここだ。2度の面接の後、連邦当局の役人は申請者の人生を決定づけることになる。残ることができるか、出て行かなければならないか。
フェルナン・メルガル タンジールに亡命したスペインの組合活動家の一家に生まれる。1963年、季節労働者として移住した両親に連れられてスイスに密入国する。80年代はじめ、ビジネスの勉強を途中で切り上げ、ローザンヌで友人たちと一緒にル・キャバレー・オーウェルを設立。ここは間もなくしてフランス語圏スイスにおけるアングラ文化のメッカとなる。このナイトスポットで独創的なビデオ上映を行った後、独学でフリーの映画監督、プロデューサーとなる。1983年、テレビ用にさまざまな実験映画や偶像破壊主義的なルポルタージュの制作を開始。1985年には現在も所属するドキュメンタリー映画作家集団のクリマージュに参加。同団体の援助を受けて十数本のドキュメンタリーを制作し、現在これらの作品は移民とアイデンティティの問題を扱った代表作とされている。前作『Exit, the Right to Die』(2005)は、権威あるEBUゴールデン・リンク賞の最優秀ヨーロッパ共同製作賞、スイス映画賞をはじめ、複数の国際映画賞を受賞。2007年にはスイスのフランス語放送局テレビジョン・スイス・ロマンド主催の脚本コンテストで優勝。現在は初の長編フィクション映画となる『Far Behind the Mountain』を制作中。ローザンヌ在住、活動拠点も同地におく。 |