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  • 審査員
    スー・フレドリック


    -●審査員のことば

     最近わくわくすることといえば、ドキュメンタリー映画に対する一般の人々の関心が新たなレベルに達したように、アメリカ国内の私の立場からは感じられることだ。私の言っているのは一連のまったくばかばかしく、とっても非現実的な“リアリティ”ショーを見せる番組ではなく、ここ数年アメリカのロードショー館で公開されている、多くのシリアスな(だけではなく時には笑え、娯楽的な)ドキュメンタリー作品のことである。ドキュメンタリーというと少数の熱心な観客しか観ていなかった昔に比べると隔世の感がある。

     またドキュメンタリーの形もぐんと幅が広がった。むろん今までと同じタイプの作品も作られ続けているが、一方で多くの実験が行なわれているし、フィクションとドキュメンタリーを織りまぜた作品や、客観的である、社会に役立つ、真実を描くのは当たり前、云々といったドキュメンタリー映画の従来の概念に疑問を投げかける様々な模索が目につくようになった。

     この動向はいたって健全なあかしなのだと思っている。ドキュメンタリー映画は時代の試練を生き延びて確固たる伝統を築いてきたので、様々なフィルムメーカーたちのどんな挑戦にも耐えうるのである。もう私たちは「ドキュメンタリーの正しいあり方とは」などと言うべきではないし、言うこともできないのだと思う。それよりも個々の作品をその枠組みで捉え、その監督が一般的形式をどのように解釈し、さらにどのような技巧を凝らして私たちに知識と視覚的快楽と、世界の新しい見方を見せてくれるのかに注目すべきではないだろうか。


    1978年から映画製作を始め、これまでにプロデュース、監督をした作品は16mmとビデオあわせて13本。主な作品は『Gently Down the Stream』(1981)、『The Ties That Bind』(1984)、『ダムド・イフ・ユー・ドント』(1987)、『ファースト・カムズ・ラブ』(1991)、『ルールズ・オブ・ザ・ロード』(1993)、『ハイド・アンド・シーク』(1996)、『The Head of a Pin』(2004)など。メルボルン映画祭でグランプリ、アウトフェストLAゲイ&レズビアン映画祭でアウトスタンディング長編ドキュメンタリー賞など受賞作多数。キャシー・キンランと共同脚本、ジム・デノルトが撮影した『ハイド・アンド・シーク』を除いた、すべての作品で自身が監督、脚本、撮影、編集を担当。現在はプリンストン大学で映画・ビデオ製作を教える。


    シンク・オア・スイム

    Sink or Swim

    - アメリカ/1990/英語/モノクロ/16mm/48分

    監督、脚本、撮影、編集、整音:スー・フレドリック
    配給:アウトキャスト・フィルムズ

    26の短いストーリーを通して、父性、家族関係、仕事や遊びについて少女の考えのもととなった子ども時代の出来事を描く。説得力のあるテキストと、日常と非日常を描く官能的なモノクロの心象風景の合間に父と娘のポートレイトが挿しはさまれる。これらの要素が絡み合い、複雑で感情を激しく揺さぶる作品。



    回復の見込み

    The Odds of Recovery


    - アメリカ/2002/英語/カラー/16mm/65分

    監督、脚本、撮影、編集、整音:スー・フレドリック
    配給:アウトキャスト・フィルムズ

    6回目の手術と目下進行中のホルモンのアンバランスに直面しつつ、監督はカメラをひとりの気難しい患者――自分自身――に向けて、より幸せで、より健康な暮らしを送れる可能性を分析する。医療施設における問題点は明らかになるが、と同時に、この患者がライフスタイルの根本的、だが必要不可欠なシフトチェンジにふみきれずにいるのは恐怖心と拒否反応のせいだということがはっきりしてしまい……。