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    Before the Flood
    淹沒

    - 中国/2004/北京語/カラー/ビデオ/143分

    監督、編集:李一凡(リ・イーファン)、鄢雨(イェン・ユィ)
    撮影:鄢雨
    録音:李子(リ・ズ)
    製作、提供:李一凡

    2009年完成予定の世界最大の三峡ダム。何百、何千の人々が住居を失い、多くの町が貯水の水位下に沈む。そのひとつ詩人李白で有名な重慶市奉節(フォンジエ)の町にカメラは目を向ける。貯水間近な2002年1月から、住民の最大の関心事である移転問題を軸に、先の生活への不安を抱えた人々の葛藤と逞しさを、次第に移住へ向けて動き出す町の情景と共に描き出す。ひとつの時代の変遷を鋭く捉え、これから編まれてゆく時の流れを予感させる見事な余韻。



    【監督のことば】三峡そして奉節行きを前にした私たちに、友人たちは口々にこう言った。――かの「詩の都」の優美さをぜひとも撮って来てほしい、そこには杜甫や李白の詩が刻み込まれているのだから。そして三峡の雄大さをぜひとも撮って来てほしい、それは大自然の詩なのだから。それから、はつらつとして素朴な三峡の人々と、歌うような船頭たちのかけ声をぜひとも撮ってきてほしい、それこそが詩なのだから。――もちろん。私たちは答えた。なぜなら芸術こそは詩なのだから。

     けれど一体どのような詩ならば、ひとりの老人がやるせなく流す涙を、あるいは十把一絡に扱われた苦力(クーリー)たちの犬のような生活を書きとめることができたのだろう。廃墟のなかで誰もが口喧しく話題にするのは「家」のことだけ。家こそが理想のすべてであり、価値のすべてなのだ。そこにいかなる詩的優美さも見い出すことができなかった私たちは、教会へ向かった。教会ならば何がしかの詩が謳われているのではないだろうか。だが、そこで謳われる詩の一節までもがすべて家のためであろうとは、その時私たちは知る由もなかった。

     貧困、失業、個の権利の喪失、公平性の原則の欠如、非理性、功利的価値観。それでも人は生きて行かねばならない。私たちがそこで向き合った真実とは、私たちの心を占める恐怖だった。渦巻く恐怖のなかでカメラが見つめたのは、人間性が廃墟のなかに沈みゆくありさまでしかなかった。

     素材を撮り終え、編集のため重慶に戻った私たちに友人たちが尋ねた。――どんな詩が撮れたのだ? ――なにも、と答えた。友人たちは畳み掛けた。――なぜ? どうして? 私たちはいたたまれずに答えた。――これから私たちは詩に敵する者となるのだから、と。


    - 李一凡(リ・イーファン)

    1966年、重慶生まれ。1986年から1991年まで北京の中央戯劇学院で学び、その後広州のテレビ・コマーシャル業界で監督として活躍。1996年、重慶に戻りライターになる。2000年から2001年まで新聞「渝洲服務導報」のチーフエディターを務める。



    - 鄢雨(イェン・ユィ)

    1971年、重慶生まれ。1994年から1998年まで重慶テレビニュース部に勤め、フォトジャーナリストとして活動を始める。その後北京に移り、ドキュメンタリーやドラマシリーズ、広告の撮影を行う。

    2001年にふたりで凡雨工作室を設立する。