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  • 審査員
    ドミニック・オーヴレイ


    -●審査員のことば

     クレール・ドゥニの『ジャック・リヴェット、パリの歩哨』『Man No Run』、ペドロ・コスタの『映画作家ストローブ=ユイレ/あなたの微笑みはどこに隠れたの?』『ヴァンダの部屋』、ヴィム・ヴェンダースの『都市とモードのビデオノート』、バーベット・シュローダーの『Koko, le gorille qui parle』に、私は編集として参加した。この監督たちの劇映画も編集したが、言うならば『ヴァンダの部屋』とマルグリット・デュラスの『トラック』とのあいだに差異を感じたことはない。

     いずれにせよ、編集のアプローチに対する発想に違いはない。大切なことは、現実を反映したものであれ、人工的に作られたものであれ、素材(マチエール)を探求し、そこに隠されたものを発見して、殻を破り自由に解き放つことである。フィクションの場合には物語にしたがって並べられた最初の粗編集版が、ドキュメンタリーの場合には物語を生み出すようなラッシュの選択が、私にとって探求の最初の材料となる。その時点で初めて解体の作業が始まる。引き裂き、耳を澄まし、さらに目を凝らしては、映画が存在するか否かを見極めようとする。

     映画作家として、私はドキュメンタリーに分類されるであろう1本の映画を作った。マルグリットはすでに亡くなっていたので、ほとんど撮影はしなかった。色彩、感情、手法といった私の記憶と友情を特徴づけるものを意識しながら、可能な限り音楽的な映画を作ろうと思った。引き裂き、引き延ばし、鋏を入れたそのアーカイヴ映像を通して、彼女の肉体、声、思考と共にあるひとつの肖像を描いてみたかったのだ。

     私は“フィクション”対“ドキュメンタリー”という構図を好まない。どちらであっても、面白い映画もあればつまらない映画もある。1本のよい映画とは、世界や様々な感情を私たちの前に差し出す、映画(シネマ)の精神に基づくものだ。映画の世界とは空から降ってきて自然にできあがったものではない。映画は、それが描く世界に、さらなる豊かさ、明晰性、リアリティを与えるのだ。

    「ドキュメンタリーとは、撮影後にシナリオが書かれる劇映画のことである」。(フレデリック・ワイズマン)


    マルグリット・デュラスと出会い、デュラスの作品『バクステル、ヴェラ・バクステル』(1976)、『トラック』(1977)、『船舶ナイト号』(1978)の編集でキャリアを開始。以後、フィリップ・ガレル、ヴィム・ヴェンダース、クレール・ドゥニ、ペドロ・コスタなど、先鋭的な映画作家の作品編集を手掛ける。2002年、デュラスのポートレート『マルグリット・デュラス、あるがままの彼女』を監督。この作品はロカルノ国際映画祭をはじめ、多くの映画祭で上映された。現在、日本の枕絵を主題としたドキュメンタリーを構想中。


    マルグリット・デュラス、あるがままの彼女

    Marguerite As She Was
    Marguerite, telle qu'en elle-même. Un portrait

    - フランス/2002/フランス語/カラー、モノクロ/ビデオ/61分

    監督、編集、提供:ドミニック・オーヴレイ
    撮影:パスカル・マルティ、アンドレ・シュムトフ
    録音:レジス・ミュラ−、ナタリ−・ヴィダル
    音楽:ジャン=クリストフ・マルティ、カルロス・ダレッシオ
    歌、朗読:ジャンヌ・バリバール
    製作:シャンタル・ベルンハイム
    製作会社:デューン、INA、Arte France

     1991年6月3日、マルグリット・デュラスは『北の愛人』を、初めて献辞を添えて私に贈ってくれた。その献辞で彼女は次のように書いてくれた。「私の友人ドミニック・オーヴレイへ あらゆる思い出のなかでもとてもすてきな思い出、まだ最近の、つまり一緒に“映画”で仕事をしたその思い出に」

     このポートレートはマルグリット・デュラス、あるがままの彼女に近づくために作りました。よく笑い、真面目で、誠実で、挑発的で、注意深く、きっぱりしていて、しかしなによりも若々しく、自由な彼女に近づくために。

    (ドミニック・オーヴレイ)