金槌と焔
Hammer and Flame-
イギリス、インド/2005/言語なし/ カラー/ビデオ/10分
監督:ヴォーン・ピーリーキュン
撮影:S・ナラマトゥ
編集:ヴォーン・ピーリーキュン、ジャスティン・ミーランド
録音:B・ヴィッダーナルン、ヴォーン・ピーリーキュン
製作:ジャスティン・ミーランド
ライン・プロデューサー:スミタ・バルティ
配給:アンルーウェイ
北インド・アランに広がる船の解体場で真二つに割られるタンカー。鉄の塊であることを忘れさせるようなあっけない最後の瞬間が画面をゆるやかに流れては去っていく。小さな道具ひとつで鉄を砕き、火花を散らして溶けていく、鉄と汗。身ひとつで永遠と続くかのような作業を黙々とこなす労働者の男、女たち。その過酷な“営みの美”が生み出す解体絵巻は、見る者に現在の“生場”を問う。
【監督のことば】船の死についての覚え書き――インド北部の海岸に、船の死に場所がある。満潮の時に砂に乗り上げ、この偉大で悲しみに満ちた巨獣ベヒモスは、やがて潮が引くと、滅亡した文明の崩壊したモニュメントのように姿を現す。亡霊のようにそびえ立つ塔は、男と女の労働によって取り壊される。彼らのほとんどは、この亜大陸の貧しい地域からやって来て、ごく単純な道具だけを使う。主に収穫されるのは鉄だが、プロペラやエンジン、船の手引きや船員の食器にいたるまで、すべてのものが回収される。アランをめぐる論議は噂や神話と化し、インド国内、また国外からも非難され、そのまた非難が非難を呼んだ。それらの船は有毒物質の魂で、欧米の船主やブローカーたちは、売却後の船の処分について責任を回避し、労働者の健康や環境への懸念は、インドの買い手にとって重要な問題ではない。長い交渉を経て、私たちはようやく、イギリスの撮影クルーとして初めて立ち入り許可を得た。多くの報告を読んではいたが、実際目にした光景は、私たちの想像をはるかに超えていた。謎の廃虚と化した街が現れては消え、そこの住人たちは、目的も持たず、終わりも知らず、それでも真面目に真剣に働いている。海岸に横たわるガルガンチュアのような巨大な建造物を解体するという、想像を絶する困難な作業なのだということを、その様子からはうかがい知ることはできない。私たちは、アランの鼓動と一体になることで、目撃者となり、その寓話をスクリーンに再現しようとした。私たちの映画は、ドキュメンタリーというよりも、既知のものと、想像力を及ぼそうとするものの境界線上にある世界に、一すじの光を当てたどこからかの断片である。
ヴォーン・ピーリーキュン 作家、画家、映画作家。詩集『At Eclipse』は2002年にロンドンで出版された。作品はヨーロッパのさまざまな映画祭で上映されている。『Mummers』は2004年のブラウンシュバイク国際映画祭でデル・レオ賞にノミネートされ、イギリスのフィルムストック国際映画祭で最優秀録音賞を受賞した。本作は2005年4月に、ブダペストのタイタニック国際映画祭で、プレミア上映された。他のいくつかの映画祭でも上映され、7月には、アルメニアのエレバン国際映画祭で最優秀ドキュメンタリーに贈られるゴールデン・アプリコット賞を受賞した。アンルーウェイでアート・ディレクターを務めるかたわら、ニューヨーク大学出版から出るサンスクリットの叙事詩『マハーバーラタ』の翻訳に取り組んでいる。 |