消えゆく思い出
Diminishing Memories悄逝的记忆
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シンガポール、オーストラリア/2005/英語、北京語、潮洲語/カラー、モノクロ/ビデオ/27分
監督、脚本、撮影、編集、録音、音楽、ナレーター、製作、提供:翁燕萍(ウォン・イエンピン)
かつて村が存在していたシンガポール西部、林厝港。森と化した、今はなき生まれ故郷へ、監督は兄と幼い時の記憶を頼りに足を踏み入れる。1960年代の工業化という国策で移住させられた村人たちを訪れ、かつての村の歴史を辿り、慈しみ、カメラに収める。目に見えるスピードで地図上から消滅した村、伝承、生活、人。図解や明るいナレーションを巧みに使うことで、アパートに暮らすようになった人々の哀しみと愛しさをこだまさせ、シンガポール国史に疑問を投げかける。
【監督のことば】この映画を製作するきっかけには、私自身の悲しみがあった。シンガポールのある村にあったその家に住むことができないということ。それは自分の子ども時代を失ってしまったという後悔である。シンガポールの自分の生まれた林厝港を撮影するために、大学の撮影機材を使えることになり、オーストラリアに住んでいた私は家に帰る途中、本当に泣いてしまった。そして私の悲しみは、物語を語りたいという情熱と決意に変わっていった。それは、単に私個人のものではなく、同じコミュニティ出身の元村民である私たちのものであり、最終的にはシンガポール人それぞれの、特に年配の世代の物語なのだ。
自分にとって思い入れのある物語を綴るので、この映画は個人的なものにしようと思った。自分の考えを表現し、シンガポールの過去の歴史、自分の子ども時代の思い出を再現するにあたって、黙想的で自己言及的なドキュメンタリーが一番確実で適切な手法だと思い、選んだ。白と黒をこのドキュメンタリー映画のテーマ・カラーにしたのは、思い出のフラッシュバックを象徴させたかったからだけではない。中国文化では死と葬儀を意味するからだ。一方で、私がナレーションを読み、声のトーンによって明るい感じを出そうとした箇所もある。この映画を悲しいだけにさせてはいけないと感じたからだ。この映画に何らかの“幸せ”な要素を加え、悲しみを薄め、また対比させることで悲しみをむしろ深くしようと考えた。そう、笑いとばすことができてしまう、それこそが最大の悲しみなのだ。
翁燕萍(ウォン・イエンピン) オーストラリア、グリフィス大学フィルムスクールでデジタルメディア製作を学び、学士号を取得。学士取得時に映画製作賞 、大学賞など学術的な功績を称える数々の賞を受賞。大学に戻る前、約5年間シンガポールのメディア・コープ・ニュースのテレビニュース編集室にてアシスタント・ディレクター、後にスタジオ・ディレクターを務める。本作はクィーンズランド新人映画製作者賞、優秀ドキュメンタリー賞を受賞し、今年の4月に行われた第18回シンガポール国際映画祭で上映された。 |