貸出作品リスト:YIDFF 2005
『生まれなかった映画たち』 『ファイナル・ソルーション』
『ジャスティス』『老いた猫のお引越し』『アンコールの人々』
『リハーサル』『メランコリア 3つの部屋』『パレルモの聖女』
※監督の下段のデータは、製作国/製作年/使用言語/色/フィルム種別(35mmの場合のスクリーンサイズ)またはビデオ(ビデオフォーマット)/上映時間/字幕
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YIDFF 2005 インターナショナル・コンペティション出品作品
水没の前に
Before the Flood (2005 ロバート&フランシス・フラハティ賞)
監督:李一凡(リ・イーファン)、鄢雨(イェン・ユィ)
中国/2004/北京語/カラー/ビデオ(DVCAM)/143分/日本語・英語字幕あり
■2009年完成予定の世界最大の三峡ダム。何百、何千の人々が住居を失い、多くの町が貯水の水位下に沈む。そのひとつ詩人李白で有名な重慶市奉節(フォンジエ)の町にカメラは目を向ける。貯水間近な2002年1月から、住民の最大の関心事である移転問題を軸に、先の生活への不安を抱えた人々の葛藤と逞しさを、次第に移住へ向けて動き出す町の情景と共に描き出す。ひとつの時代の変遷を鋭く捉え、これから編まれてゆく時の流れを予感させる見事な余韻。
ルート181
Route 181--Fragments of a Journey in Palestine-Israel (2005 山形市長賞)
監督:ミシェル・クレフィ、エイアル・シヴァン
ベルギー、フランス、イギリス、ドイツ/2003/アラビア語、ヘブライ語/カラー、モノクロ/ビデオ(DVCAM)/270分/日本語・英語字幕あり
■2002年夏、2カ月にわたりパレスティナ人ミシェル・クレフィとイスラエル人エイアル・シヴァンは、故郷を南から北まで彼らが名づけた「ルート181」に沿って一緒に旅をする。1947年11月29日パレスティナを二分するため採択された国連決議181条の中で描かれた境界線を辿り、その土地土地に住む様々な背景を持つイスラエルやパレスティナの人々に出会う。彼らの日常生活をフィルムに収めながら、「ルート181」に凝集された過去や現在を話者から巧みに引き出していく。イスラエル・パレスティナのみならず私たちが抱える問題――国家、民族、差別、移民――を照射し、未来を見つめる太い熱脈が波打つ。
海岸地
Foreland (2005 優秀賞)
監督:アルベルト・エリンフス、オウジェニー・ヤンセン
オランダ/2005/オランダ語/カラー、モノクロ/35mm(1:1.66)/70分/日本語・英語字幕あり
■オランダの牧畜と農業の村。人々や動物、木々や河の流れもすべてが豊かでゆったりと流れる。そんな村の光景を7年の年月をかけ解説などをいっさい排してフィルムに刻んだ作品。時には河が氾濫し人々の生活を脅かす。何も変わらないようなこの村にも、やがて開発や変化の兆しがさしてくる。森林が伐採され、かつては中心的産業であったレンガ工場の廃墟も取り壊されてゆき、鉄道の地下トンネルが開通、静かな村も式典の賑わいに包まれる。
静かな空間
About a Farm (2005 優秀賞)
監督:メルヴィ・ユンッコネン
フィンランド/2005/フィンランド語/カラー/ビデオ(DVCAM)/54分/日本語・英語字幕あり
■フィンランドの小さな街にある農場を営んでいた両親は、牧場の牛を売り払い農場の閉鎖を決意する。残された畑も父親の怪我で売却されることに。高校卒業間近な妹の病気、心配するしかない母親。農場を継がずに都会での生活を選んだ妹と監督。押し寄せる時代の波と、家族の日常を映し出しながら、父の撮りためた 8mmフィルムを眺め、ひとつの家族の物語をひとつの作品へと昇華させた。本作が長編デビュー作のフィンランド期待の監督によるセルフ・ドキュメンタリー。
イラク ― ヤシの影で
In the Shadow of the Palms--Iraq (2005 市民賞)
監督:ウェイン・コールズ=ジャネス
オーストラリア/2005/アラビア語、英語/カラー、モノクロ/ビデオ(DVCAM)/90分/日本語・英語字幕あり
■2003年春、イラク攻撃4週間前。アメリカによる攻撃開始が予見されながらも日々の生活に勤しむバクダットの人々。子どもたちにレスリングを熱心に教える元オリンピック代表兼駐車場経営者、カフェでの談義に花を咲かせるおじいさんたち、靴屋のおじさん、大学教授、そして通訳者のパレスティナ人男性……。それぞれが見るイラクと世界に対する考えや立場は異なるが、朗らかであった人々の空気は、爆撃開始後一変する。世界がプロパガンダの嵐にさらされる中で、監督は自分の目で見た「イラク」を伝える。
生まれなかった映画たち
Cinéma Invisible--The Book
監督:ケース・ヒン
オランダ/2005/オランダ語/カラー、モノクロ/ビデオ(DVCAM)/73分/日本語・英語字幕あり
■映画誕生100年を記念して出版された、映画化されなかった脚本集『シネマ・インビジブル』を求め書店を訪れた女性をナビゲーターに、未映画化作品10本を100本の中から抜き出し映像化していく。チャップリンやクルーゾー、『地下鉄のザジ』、『戦艦ポチョムキン』などを挿入しながら、遊び心溢れるファンタジー・ドキュメンタリーが誕生した。すべての映画にオマージュを捧げる作品。
ファイナル・ソルーション
Final Solution
監督:ラケッシュ・シャルマ
インド/2004/ヒンディー語、グジャラート語、英語/カラー/ビデオ(DVCAM)/150分/日本語・英語字幕あり
■2002年インド西部グジャラート州で起こったイスラム教徒の虐殺事件の考察を通じて、インドにおけるヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立を捉える。正統インドを標榜するヒンドゥー政党によるイスラム教徒への圧迫、衝突。ヒンドゥー教徒、イスラム教徒両者の証言により憎悪の形成と増幅が丹念に描かれている。出口の見えない対立構造の中で解決の手がかりを見いだそうとする監督の真摯な姿勢が胸を打つ。
ジャスティス
Justice
監督:マリア・アウグスタ・ラモス
オランダ、ブラジル/2004/ポルトガル語/カラー/35mm(1:1.66)/100分/日本語・英語字幕あり
■『私の言いたいことは…』(YIDFF'95アジア百花繚乱)のマリア・ラモス監督新作。リオ・デ・ジャネイロの裁判所や刑務所の内部に向けられた視線は、そこに関わる人や関わらざるを得ない人々の日常を行き来しながら、「正義(ジャスティス)」の周辺を描き出す。裁く者と裁かれる側の厳然たる経済的格差や家庭環境の違い、過密を極める刑務所の深部の空気、犯罪者とされる人とその家族たちの苦悩など、カメラは正義の名の下に“裁くということ”がもたらす有り様にひたすら目を凝らす。
老いた猫のお引越し
Moving Adult Cats
監督:ヨハン・ルンドボーグ
スウェーデン/2004/スウェーデン語/カラー/ビデオ(DVCAM)/58分/日本語・英語字幕あり
■移動販売車が週に一度通ってくるスウェーデンの田舎町。ひとり暮らしのふたりの老人、彼らの日常にカメラは寄り添う。終の棲家として老人ホームへの移住を決意した90歳のグレタ、周りを雑草が囲む荒れ果てた家で3匹の猫と暮らす79歳のアルベルト。人生を見つめながら自分らしく生きようとするふたりが自然な選択をするまでの微妙な心の揺れ。作者はそれらを注意深く見つめ、人間が必ず辿る老いの問題を繊細に描き出す。
アンコールの人々
The People of Angkor
監督:リティー・パニュ
フランス/2003/カンボジア語/カラー/ビデオ(DVCAM)/90分/日本語・英語字幕あり
■アンコール・ワットを舞台にそこに住む人々や遺跡、観光客たちの情景をひとりの少年を主人公に描いていく。遺跡の石に描かれた物語や呪術的な物語が現在のカンボジアと重なる。まだ残る内戦の痛み、都会と農村の落差、未来を見通せない少年の思いがゆったりとしたリズムと美しい映像で綴られて静かな感動を呼び起こす。これまで本映画祭で上映された『さすらう者たちの地』の絶望、『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』の戦慄、そして『アンコールの人々』の希望。監督は常に祖国カンボジアと向き合い、カンボジアを描き続けている。
リハーサル
Rehearsals
監督:ミハウ・レシチロフスキー
スウェーデン/2004/スウェーデン語/カラー/35mm(1:1.85)/101分/日本語・英語字幕あり
■実際に服役中の囚人3人が公開の舞台で演じるプロジェクト「7:3」。演出家が刑務所に出向いてリハーサルを続ける過程、ネオナチを含んだ囚人たちの証言、実際の公演、3つの映像が複雑に絡み合いひとつの物語になっていく。どこまでが事実でどこまでが台詞なのか、現実と虚構がボーダレスに行き交い、観客を惑わし続ける。スウェーデンのメディアで激しい論争になったこのプロジェクトは、予想もしない方向に向かってゆく。
メランコリア 3つの部屋
The 3 Rooms of Melancholia
監督:ピルヨ・ホンカサロ
フィンランド、ドイツ、デンマーク、スウェーデン/2004/ロシア語、チェチェン語、アラビア語、フィンランド語/カラー、モノクロ/35mm(1:1.85)/106分/日本語・英語字幕あり
■チェチェン紛争をめぐる子どもたちの生活を3つの場面から追う。ロシア連邦北西部サンクトペテルブルクの士官学校では幼い子どもたちが軍事教練に明け暮れている。廃墟と化したチェチェン共和国の首都グロズヌイでは親子の生活が引き裂かれ、隣国イングーシ共和国の難民キャンプでは子どもたちが空爆の音に怯えている。見守るように慈しむ眼差しの中に、見据えるべき未来を失った悲惨な状況下で生きる子どもたちの表情が浮かび上がる。
パレルモの聖女
The Virgin of Palermo
監督:アントニオ・グイーディ
ドイツ、イタリア/2005/イタリア語/モノクロ/35mm(1:1.66)/82分/日本語・英語字幕あり
■イタリアのシチリア島北西部に位置する都市パレルモにはさまざまな文化や宗教を持つ人々が共存している。7月に行われるサンタ・ロザリア祭は、17世紀に町をペストから救ったと伝えられる聖女を讃える町をあげての盛大な祭り。信仰と伝統が町全体に根付き、現在にも受け継がれている。モノクロームで描かれた風情ある町の風景や人々の陽気な表情、優しい音楽。華やいだ祭りの奥にある地域文化の豊かさとおおらかさに心惹かれる。