審査員
アミール・ナデリ
●審査員の言葉
ドキュメンタリー映画は、事実上、映画全般の母である。今日のドキュメンタリー映画製作が、より正直で純粋でパーソナルなのは、恐らくこのためであろう。この点では、劇映画はひどくなる一方である。時には、かすかな希望が明るく輝く時もあるが、そんな希望は、あいにく映画化されてしまった粗悪な作品の大きな圧力の下で、すぐに消えてしまう。しかし、良質のドキュメンタリー映画の数は、世界中でますます増加している。すでに新しい波が、やって来ているのだ。
私たちは今日山形において、私たちが暮らしている世界のリアリティに満ちた姿を見ることになる。現代のドキュメンタリー映画は、世界の映画の将来に対して、多大な影響力を持っていると、私は確信している。
ドキュメンタリー映画の審査員の一員としての、今年の私の体験は、これまで他で数多く務めてきた審査員の経験とは、ずいぶん異なるものになるだろう。なぜなら今回は、現代世界の事実に基づく証拠を目の当たりにするからだ。私は、これら作品を見るのが待ちきれない。
ロバート・フラハティ、ジガ・ヴェルトフ、そしてその他のドキュメンタリー映画製作の真の創始者たちよ、万歳! 彼らが数十年前に蒔いた種が、多くの社会や文化で見事に花開いたのだ。そして、日本のニュース・ドキュメンタリー映画の先駆者である亀井文夫を思い起こしながら、私たちの世界を記録し続ける未来の夢想家の世代を私は待ち焦がれている。
カット!
アミール・ナデリ
1945年、イラン、アバダンに生まれ。キアロスタミやマフマルバフとともにイラン映画が国際的に脚光をあびるきっかけをつくったひとり。テヘランでスチール・カメラマンとして活動。その後『Deadlock』(1973)、『ハーモニカ』(1974)、『Requiem』(1975)、『The Winner』(1979)をたて続けに製作。その間ナデリ脚本、キアロスタミ監督の『Experience』(1974)も発表している。『駆ける少年』(1986)、『水、風、砂』(1989)は両作ともナント三大陸映画祭グランプリを受賞。その後アメリカに移住、ニューヨークを本拠地として活躍。日本でも劇場公開された『マンハッタン・バイ・ナンバーズ』(1993)、カンヌやサンダンスで上映された『A, B, C . . . Manhattan』(1997)、『マラソン』はニューヨーク三部作として高い評価を得ている。2002年には東京フィルメックスに審査員として参加。2003年に新作『Naked Radio』の撮影に着手。 |
マラソン
Marathon-
アメリカ/2002/英語/モノクロ/ビデオ/74分
監督、脚本、編集:アミール・ナデリ
撮影:マイケル・シモンズ
録音:トレヴァー・ムーア
製作総指揮:アミール・ナデリ、レザ・ナマジ
出演:サラ・ポール、トレヴァー・ムーア、レベッカ・ネルソン
提供:アミール・ナデリ
ニューヨークを舞台に、24時間のうちに可能な限りのクロスワード・パズルを解こうとする「クロスワード・マラソン」を続けるひとりの女性。地下鉄、バス、街中の雑踏などを移動し、部屋に帰っても録音された騒音を流して、ひたすらパズルに挑む。台詞を極端に排し、ニューヨークの風景と音のただ中を突っ走る主人公をひたすら追う映像に、異様な緊張感が漂う。
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