審査員
アラン・ベルガラ
●審査員の言葉
数年前から、フランスだけでなく、他の映画生産国でも、ドキュメンタリー映画がその領土と正当性を取り戻そうとしている。映画を作ろうとしている今日の学生にとって、ドキュメンタリーを企図することは劇映画を作ることと同じくらい魅力的な創作活動になったが、この状況は数年前にはとても考えられなかった。
この変化は、おそらく、劇映画の進化と結びついている。リアルなものから切り離され、世界中の観客にとって「わかりやすいようにあらかじめ噛み砕かれた」神話とレトリックを作り出すことに次第に没頭するようになった劇映画は、文化的、地理学的、国家的な個別性を考慮に入れなくなってきてしまった。
ドキュメンタリー映画は、この流れに対して、映画的な行為のまさに基盤を成しているものへ回帰するかのように表われる。すなわち、シネアストがあるアイディアや計画に出会う際には現実を伴うが、その現実というのは、前もって予測することができず、扱いがたく、厳密に現代的で特異なものなのである。ドキュメンタリーは、ある種の映画による“世界連邦主義的”な標準化に対して成しえる、抵抗のひとつの場所だろう。ドキュメンタリーを選択することは、現代のシネアストにとって、世界の中での自身の場所と世界についてのヴィジョンを主張することである。かつて、劇映画の監督たちの特権だった“作家”というありようが、今ではドキュメンタリーの領域においても重要になっているのだ。
ドキュメンタリーにおいて、シネアストの立ち位置を“主題”としてどう捉えるかという問題は、現在の映画をよく理解するために、刺激的かつ本質的なもののように私には思える。ドキュメンタリー映画では、現実とシネアストにとっての主題の関係性がますます重要になっているが、どちらかがもう一方を犠牲にして、消し去ってしまうということはないのである。
最後に、すべての映画にとって原理的な問い、“現実の現実性”の問題について少し述べたいと思う。キャメラが現実の断片を撮影し、記録することをはじめて以来、その行為だけでキャメラがこの“現実の現実性”について何かを捉えたという感情を、観客に対して与えることができないことを私たちは知っている。その一方で、ドキュメンタリー映画は、それが成功した作品である場合、主観的な経験をすることを私たちに許すことがある。この“現実の現実性”に瞬時的に触れる作品が私たちにもたらす捉えがたく刺激的な感覚は、いかなる法的な命令、イデオロギーや善悪の意図にも従うものではない。私には、この感覚がドキュメンタリー映画作家の才能を、第一義的に証明するものであるように思われるのだ。
アラン・ベルガラ
映画批評家、映画作家。1978年から『カイエ・デュ・シネマ』誌の編集に携わり、1983-85年に副編集長を務める。1988年までは『カイエ・デュ・シネマ』の叢書を責任編集。現在は主にパリ第3大学で教鞭を執る。編著書に、『Roberto, Rossellini. Le cinéma révélé』(編集)、『ゴダール全評論・全発言』(編集)、『Nul mieux que Godard』などがある。新著の『L'hypothèse cinéma』(2002)は、文部省の推進する芸術教育プロジェクトに顧問として参加した経験から生まれた考察である。映画作家としての仕事としては、『逃げ口上』(ジャン=ピエール・リモザンと共同監督、1983)、『Où que tu sois』(1987)などの長編のほか、美術や芸術家についての中編ドキュメンタリーを多く撮っている。 |
パゾリーニの小さな花
Little Flowers of Pier Paolo PasoliniLes fioretti de Pier Paolo Pasolini
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フランス/1997/フランス語、イタリア語/カラー、モノクロ/ビデオ/53分
監督:アラン・ベルガラ
脚本:アラン・ベルガラ、エルヴェ・ジュベール=ローランサン
撮影:ジャック・ロワズルー
編集:ヴァレリー・ロワズルー
録音:ピエール・アルマン 音楽:バッハ
声:アラン・ベルガラ、ギヨーム・フラグル、ブルーノ・タクルス
協力:ラウラ・ベッティ、ニネット・ダヴォリ
製作:ドミニク・ジブラーユ
「世紀の作家たち」シリーズ製作指揮:ベルナール・ラップ、フロレンス・マウロ
製作会社、提供:レ・フィルム・デュ・タンブール・ドゥ・スワ
フランスのテレビ局による映画作家シリーズのひとつ。作家で詩人であったピエル=パオロ・パゾリーニの作品『アッカトーネ(乞食)』などを挿入しながら、戦後イタリア社会と格闘したパゾリーニの軌跡をたどる。
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