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沖縄特集 琉球電影列伝/境界のワンダーランド

Part 9
沖縄の血・地・知・痴、そしてchi――高嶺剛の世界


 高嶺剛の登場と活躍は、沖縄を巡る映画史に明白な句読点をうった。それまで沖縄をテーマにした数多の映画は、「越境者」意識とも言える他者的な表現軸であり、しかも紋切り型の沖縄しか提示しかなかった。〈特集内特集〉として高嶺剛の映像の集積から立ち昇ってくる複数の「沖縄」と「マジックリアリズム」を堪能してもらう、高嶺ワールドクロニクル。それが何なのか、言葉で読解する以前に、高嶺ワールドに入り込むほうが正解である。ただひとつだけ断定できることがある。それは、高嶺以前と以後では、沖縄を巡る映画が明らかに変わったことを確認できるはずである、ということ。

 


- サシングヮー

Sashingwa (Dear Photograph)

1973/ダイアローグなし/カラー、モノクロ/8mm/15分

監督、撮影:高嶺剛 
音楽:高嶺栄享、高嶺ミツ
製作、提供:高嶺プロダクション

家族写真に着色を施し、フェードイン、フェードアウトの手法で招き寄せた家族の記憶をめぐるクロノロジー。もともと着色写真の個展の記録として8mmで撮影したものであるが、フェードイン、フェードアウトによって写真にゆるやかな動きと間が与えられ、詩のような映像を立ち上がらせた。



- オキナワン ドリーム ショー

Okinawan Dream Show

1974/ダイアローグなし/カラー/8mm/180分

監督、撮影:高嶺剛 録音:タルガニ
製作、提供:高嶺プロダクション

沖縄の復帰直後の風景を独特な視点で凝視したロードムービー。このフィルムは〈通り/過ぎる〉時の風景が見せる刹那やその時々の日常にこだわりつつ、時計の時間から遠く離れて視線を解きほぐす。復帰前後の熱い政治の季節に、ひたすら路上の風景と日常に寄り添ったこの映画が生まれたのは、ほとんど奇跡に近いといってよい。高嶺映画の原点となった作品。



- オキナワン チルダイ〈特別版〉

Okinawan Chirudai <Special Edition>

1976〜/沖縄語、日本語/カラー、モノクロ/ビデオ/78分/日本語字幕版

監督、撮影:高嶺剛
録音:タルガニ
ライン編集:細田敦彦、岡貴文、大久保俊祐、田山智博
音楽:知名定男、照屋林賢
出演:平良トミ、安部そう、照屋林助、カッチャン、宮里栄弘
製作協力:ビジュアルアーツ専門学校・大阪
製作、提供:高嶺プロダクション

オリジナルの『オキナワン チルダイ』に未完成の『オキナワン ハーダーリー』を加え、オムニバス形式で構成した特別版。オリジナル版『オキナワン チルダイ』は、日本復帰後6年の沖縄の変貌を“時間”を手がかりに描いたものである。現実の時間と神話的な時間が変幻する摩訶不思議な世界が、ここにはある。



パラダイスビュー

Paradise View

1985/沖縄語、日本語/カラー/16mm(原版:35mm)113分/日本語・英語字幕版

監督、脚本、美術:高嶺剛 
撮影:東司丘宇天 
編集:PTC 録音:東満夫
音楽:細野晴臣 
プロデューサー:阿南満三
出演:小林薫、戸川純、細野晴臣、大宜味静子、間好子
製作会社:ヒートゥバーンプロダクション 
提供:国際交流基金

『オキナワン チルダイ』によってフィクションに踏み出した高嶺剛の作家的資質と世界創出力を印象づけた作品。日本復帰直前の沖縄を舞台に、大衆の集合的意識に関わる民話や伝説や習俗などを自在に解釈しなおし、独自なワールドを作り出す。そして、寓意と夢幻に満ち満ちた世界とアメリカ世からヤマト世の狭間でさまよう沖縄の迷宮を描出する。



ウンタマギルー

Untamagiru

日本/1989/沖縄語、日本語、英語/カラー/35mm/120分/日本語・英語字幕版

監督、脚本:高嶺剛
撮影:田村正毅
編集:吉田博
録音:川嶋一義
音楽:上野耕路
製作総指揮:増田通二 製作:山田晶義
プロデューサー:伊東準一、針生夏樹
出演:小林薫、戸川純、青山知可子、間好子、平良進、照屋林助、宮里栄弘、平良トミ
製作会社、提供:パルコ

沖縄という場から立ち上ってくるファンタジーと多声的な物語の可能性を開いた高嶺剛の代表作。本土復帰直前の沖縄を舞台に、豚の化身マレーとの交情を果たした主人公のギルーと、マレーをニライカナイの使者のために慈しみ大切に育てる西原親方との確執を軸に、夢と現実、現世と他界、人間と妖精などがまぐわい、絡まり合う。夢を盗み/盗まれる物語の円環によって、沖縄が潜ろうとする時代と夢の在り処を探り当てた。



嘉手苅林昌 唄と語り

Kadekaru Rinsho: Songs and Stories

1994/沖縄語、日本語/カラー/ビデオ/59分/日本語字幕版

構成、編集:高嶺剛 原案、企画:仲里効、高嶺剛
撮影:平田守、大盛伸、勝連尚
音楽:嘉手苅林昌 製作会社、提供:セスコジャパン

風狂の歌者ともいわれた嘉手苅林昌の唄とインタビューで構成したドキュメンタリー。「時代の流れ」から「忍び仲風」まで、収録された14曲の唄は、竹富島や住み慣れたコザ界隈でオープンエアー、そのひとつひとつの唄が風景の中で、嘉手苅林昌の人生と時代と沖縄が共振する様相が描き出される。数々の逸話を残す話芸も嘉手苅林昌の生き方そのものだ。飄々と風のように生き、風のように唄った風狂の歌者との魅惑的なダイアローグ。



- 夢幻琉球・つるヘンリー

Tsuru-Henry

1998/沖縄語、日本語、英語、台湾語/カラー/ビデオ/90分/日本語字幕版

監督:高嶺剛 脚本:高嶺剛、仲里効
撮影:平田守 編集:鵜飼邦彦
録音:備瀬哲、松田直人 
音楽:上野耕路 美術:ムラギしマナヴ
出演:大城美佐子、宮城勝馬、當間美恵蔵、平良進、平良トミ、親泊仲真
製作、提供:高嶺プロダクション、市民プロデューサーシステム

放浪の島唄歌手つるとその息子ヘンリー母子が偶然に拾った脚本『ラブーの恋』を映画化する旅を通して、沖縄という土地や人々の身体に刻まれたスティグマや記憶を巡るロードムービー。『パラダイスビュー』と『ウンタマギルー』が、沖縄と日本の関係を物語展開の磁力にしながら、沖縄の“血”と“地”と“知”と“痴”が織りなすところに成立するファンタズムだとすれば、本作は、それらの沖縄を巡る複数の系譜さえ多点重層化し、新たな物語の旅を書き入れる。



- 私的撮夢幻琉球 J・M

Private Images of Ryukyu: J.M.

1996〜/沖縄語、日本語、リトアニア語、英語/カラー/ビデオ54分/日本語字幕版

監督、編集:高嶺剛
出演:ジョナス・メカス
提供:高嶺プロダクション
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1996年にジョナス・メカスが沖縄を訪れたことがきっかけになって生まれたプライベート・フィルム。上映会でのトークや三線に合わせ歌い踊る様子、そして沖縄本島北部のグスクや集落や海辺を散策するメカスの姿が独特なカメラワークで写し込まれている。メカスが帰った後、高嶺は沖縄にひとり残りカメラを回し続けた。1996年沖縄の断面を恬淡と眼差すカメラアイがある。『オキナワン ドリーム ショー』の今日版とみてもいい。



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