審査員
エリカ・バルサム
●審査員のことば
映画の力とは私にとって基本的にはドキュメンタリーの力であり、個々の映画がフィクショナルな作品世界を作り出す場合でさえもそのことは揺らがない。 映画というメディアは、かの世界とよりよく遭遇するためにいまある世界の外へ、その闇の中へとわれわれを連れてゆく。思い出されるのはセルジュ・ダネーの以下のような言葉である。「心からの信念が収まる金庫に負債を返済し なければならず、見えるものを信じてみせることをしなければならない、そんな瞬間はいつだってやってくる。[…]見る能力がある誰かに何かを見せるという行為には、いくら かのリスクといくらかの美徳――つまりは価値――があるに違いない。視覚的なものを〈読む〉とかメッセージを〈解読する〉方法を学ぶことは、見ないよりは見る方が優れているという、最低限ではあるが根の深い確信がなかったなら、無意味なことだろうし、〈時間内に〉見られないものが本当に見られることは決してないのだ。」
キングス・カレッジ・ロンドン准教授(映画研究)。『A History of Film and Video Art in Circulation』(2017年)、『TEN SKIES』(2021年)など、 これまでに4冊の著書を執筆するほか、『アートフォーラム』や『シネマ・スコープ』といった場でも定期的に批評文を寄稿する。ヒラ・ペレグとは「No Master Territories: Feminist Worldmaking and the Moving Image」展(ベルリン世界文化の家/ワルシャワ近代美術館、2022−2023年)を共同キュレーションし、また 『Documentary Across Disciplines』(2016年)と 『Moving Image』(2022年)の2冊の共編書も出版し ている。2018年にはフィリップ・リーヴァーヒューム賞、さらには映画メディア研究協会より、キャサリン・シンガー・コヴァックス評論賞を授与された。