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審査員
オスカー・アレグリア


●審査員のことば

山形は終点であり、始点でもある。

 スペインはナバラのプント・デ・ビスタ国際ドキュ メンタリー映画祭で働いていた時、私たちにはふたつの街を結ぶ橋がありました。藤岡朝子さんは長年の間、日出ずる国における私たちの「大使」でした。その後、魅力的な「二重の影」部門に私のデビュー作『エマク・バキアを探して』(2012)が選ばれ、幸運にも山形を訪れることができました。

 灰と霧から作られ、私の国の山々で私たちの風景が日本的なものへと変容する新作とともに、いま山形は私にとって再び二重の目的地となります。音を喚起する作品タイトルを持ちながら沈黙へと捧げられた『シンシンドゥルンカラッツ』という第3作を携えて、私は山形を訪れます。

 二重の影、私の影のもう片方は、光栄かつ喜ばしいインターナショナル・コンペティション審査員であることです。映画を見ること、それを投影すること。 だから私は、山形に辿り着けば新しい道が拓けると言うのです。目的地としての山形、出発地としての山形。足を使って長い道のりの中で映画を作るの です。映画を撮るのは始まりに過ぎません。つねに始まりに身を置くこと。夢を繰り返すこと。ひとつの旅、ひとつの映画が、私たちを再び山形へと連れて行くのです。


オスカー・アレグリア

1973年生まれ。2013年から2016年までパンプローナ・ナバラで開催されたプント・デ・ビスタ国際ドキュメンタリー映画祭のアーティスティック・ディレクターを務める。長編第一作『エマク・バキアを探して』(2012、YIDFF 2015)は、マン・レイが『エマク・バキア』を撮影したバスク海岸の家を探す作品で、ブエノスアイ レス、エディンバラ、テルライド、サン・セバスチャン、シャンハイ、リスボンなど世界各地の映画祭で上映され、16か国語に翻訳、17の賞を受賞した。長編第二作 『Zumiriki』(2019)は、ヴェネチア国際映画祭のオリゾンティ部門でプレミア上映され、セビリア・ヨーロッパ映画祭では最優秀ノンフィクション映画賞を受賞した。



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シンシンドゥルンカラッツ

Zinzindurrunkarratz

スペイン/2023/バスク語/カラー、モノクロ/ デジタル・ファイル/89分

監督、脚本、撮影、編集、録音:オスカー・アレグリア
ポストプロダクション:ルイス・ハンブリナ、アイマル・オラスコアガ
テキスト校正:アンデル・イサギレ、アルカイツ・カノ
現像:Retrolab, Film Rescue Europe
提供:オスカー・アレグリア www.oskaralegria.com

ある映画監督が、かつて村の羊飼いたちが山の牧草地に行くために使った牧草地横断ルートを辿ろうと思い立つが、正確なルートを知る存命の人物を見つけることができない。彼は、家族の古いスーパー8のカメラを使ってその道程を撮影しようと考えるが、 41年間使われていなかったそのカメラは、もはや音を拾わない。忘れられた道、無言のカメラは、パオロというロバとともに、思い出と疑問符と沈黙に満ちた旅の主人公となる。作品の題名はバスク語で、バスク山脈のアンディア高原にある3つの場所を羊飼いたちが擬音語で表したことに因む。