訪問、秘密の庭
The Visit and a Secret GardenLa Visita y Un Jardín secreto
- スペイン、ポルトガル/2022/スペイン語/カラー/DCP/65分
監督:イレーネ・M・ボレゴ
脚本:イレーネ・M・ボレゴ、マヌエル・ムニョス・リバス
撮影:リタ・ノリエガ、ハビエル・カルボ
編集:マヌエル・ムニョス・リバス、イレーネ・M・ボレゴ
録音:ニコラス・サベルティディス
音響、ミキシング:ウーゴ・レイタン
製作:マリアンジェラ・モンドーロ=ブルクハルト、レナータ・サンショ
製作会社:59 en Conserva S.L.、Cedro Plátano Lda
配給:Les Films de la Résistance
前衛芸術に参画した女性たちの最初の世代とされ、スペイン有数の画家のひとりであったイサベル・サンタロは、1980年代以降、芸術の表舞台から姿を消した。彼女の姪である監督は、現在では家族との付き合いも断ち隠遁生活を送る彼女の住まいを訪ねる。本作はイサベル・サンタロという芸術家の作品や生涯を詳しく紹介する代わりに、猫とともに暮らす年老いた女性のたたずまいをじっと見つめる。彼女はなぜ絵画を発表するのをやめたのか。なぜ孤独な生活を選んだのか。やがて彼女が語り出す言葉が、芸術家として生きること、そして女性として生きることの真髄に触れる。(YH)
【監督のことば】この映画のきっかけとなったのは故郷への帰還、懸案だったイサベル・サンタロとの邂逅、そしてまた恐れからだった。本作は撮影時に刻まれた足跡も私自身の変化すらも隠すことなく、記憶と忘却、アートと創作プロセスについて、アーティストであり女性であるとはどういうことかという問いを提起しつつ省察する。けれどもこれは伝記映画ではなく、それどころか当該ジャンルへの挑戦状である。これは、眼差しと適切な距離をめぐる映画なのだ。我々の多くは影の中に差す光を捜し求めている。
集中を妨げる美的要素に頼らずにいることが自分にとってかくも重要だった理由はここにある。大事なのは「複雑な単純さ」に到達すること。私はいかなる妙技にも酔わずにある種しらふの状態で撮りたいという衝動に駆られたので、眩惑的な撮影技法や音を映画の強みとすることは避けている。イサベルを描き出すには地味な文体、ミニマリスティックですらあるような文体を用いるのがいちばんフェアなやり方だと気付いたのだ。むしろ映画の形式のほうがイサベルに、その個性に、また行方の知れない彼女の絵画に合わせなければならなかった。
本作では映画における私の指針が示されている。まず、些細で無意味としばしば片付けられてしまうもののもつ表現の力を、そういったものを撮る時に体験するやもしれぬ啓示の瞬間とともに固く信じること。それから、かなり具体的な空間の中で映画を組み立て、そこに存在する人たちや、誰しもが共通してもつ人間的な弱さに焦点を当てることだ。
結局のところ、これは我々がめったに立ち止まらないところによくよく目を向けるよう誘うものである。古いアパートの扉の向こうに一篇の映画が隠れていて、それとともに秘密の庭が潜んでいたのである。
キューバの国際映画TV学校を卒業後、ロンドン映画学校に進学。その後A・キアロスタミの元でも指導を受ける。単館系ノンフィクション映画の制作会社「59 en Conserva」の共同創立者・経営統括者。イフラヴァ国際ドキュメンタリー映画祭「新進プロデューサー」プログラムの参加メンバー。監督としてはこれまで『California』(2005)、『Vekne Hleba i Riba』(2013)、『Muebles Aldeguer』(2015)など9本の短編で各賞を受賞している。プラド美術館フェローとして映画と他ジャンルの芸術との相互依存性の研究調査にも携わった経験もある。本作は長編監督デビュー作となる。