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発見の年

The Year of the Discovery
El año del descubrimiento

- スペイン/2020/スペイン語/カラー/DCP/200分

監督:ルイス・ロペス・カラスコ
脚本:ルイス・ロペス・カラスコ、ラウル・リアルテ
撮影:サラ・ガジェゴ
編集:セルヒオ・ヒメネス・バランケロ
音響:アルベルト・カルサレ、ホルヘ・アラルコン
製作:ルイス・フェロン、ルイル・ロペス・カラスコ、ペドロ・パラシオス、ダニエル・M・カネイロ、リカルド・サレス、ダビド・エピネイ、エウヘニア・ムメンタレル
製作会社:LaCima Producciones, Alina Film
配給:Distribución ECAM

コロンブスのアメリカ大陸到達から500年を記念し、バルセロナ・オリンピック、セビリア万博が開催された1992年のスペイン。国を揚げた祭典の裏で、社会はグローバル化の波を受け経済危機に陥っていた。カルタヘナでは住民による抗議活動が暴徒化し、州議会場が燃やされる事態となる。本作は、当時デモに参加した労働者たちの語りと、生活に喘ぐ現代の若者たちの会話とが交錯する煙たいバルを全編Hi-8ビデオカメラで撮影。緻密に構成された2分割画面に争議の生々しいアーカイヴ映像が挿入され、時を行き交いながら国家の成功神話に抗う。(HH)



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【監督のことば】18歳になってからはマドリードで暮らしているが、私が生まれたのはムルシア市内だった。父方の祖父母が仕事の都合のためにカルタヘナで暮らすことになり、幼少期は当地と行き来して大部分を過ごした。カルタヘナは、州都ムルシアに匹敵する規模をもつ1000年来の軍港の街だ。

 7歳のとき、少し前に完成した真新しい州議事堂をかたどった型紙に、一日かけて色を塗るという授業があった。議事堂が炎上した日のことが特別に記憶に残っているのは、そのとき色を入れていた正面壁の彫像が心に深く刻まれていたからだ。事件当時私は11歳で、社会全体がそうだったように、その年に開催される複数の行事に向けられた熱狂の渦に圧倒されていた。1992年、スペインが国際社会を前に新たなる近代国家の一員として披露された、その年のことだ。オリンピックの開会式を見て、ニュースキャスターたちの言う「未来世界の経済力」の片鱗を感じたのを私も憶えている。

 昨年来の危機のなか、国会が数か月もフェンスと警官に取り囲まれるいまになってふと、燃えさかる議事堂の映像が頭によみがえってきた。近郊の都市、それも祖父母が住む街で起きた議事堂火災は、ムルシアにいた両親や親族にとってどんな経験だったのか。そう尋ねる私に、彼らは訝しげな目を向けてきた。いったい何の話だ? 何年に起きたことだって? 作り話でもしているんじゃないだろうね?――私にとって自治州議会炎上事件は、表からはなかなか見えない、もうひとつの1992年だったのだ。


- ルイス・ロペス・カラスコ

1981年、スペイン ムルシア生まれの映画作家・著述家。2008年に仲間たちとともに実験映画ドキュメンタリー集団「ロス・イホス」を結成。これまでロカルノ、ロッテルダム、トロントのほか、ニューヨーク映画祭、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭、ウィーン国際映画祭など多数の映画祭への出品歴がある。主な作品は『El sol en sol del membrillo』(2008、ロス・イホス名義の短編)、『Los materiales』(2009、ロス・イホス名義)、『Circo』(2010)、『El futuro』(2013)、『Árboles』(2013、ロス・イホス名義)、『Fuente grande』(2016、短編)、『Aliens』(2017、短編)など。