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光の消える前に

Before the Dying of the Light

- モロッコ、フランス/2020/アラビア語、フランス語/カラー、モノクロ/DCP/70分

監督、脚本、製作:アリ・エッサフィ
編集:シャギグ・アズマニアーン
SFX、クレジット・デザイン:モハメド・スラウイ・エル・アンダルーシ
音響:キンダ・ハッサン
ミキシング:ジャン=マルク・シック
製作会社:Cinemaat Productions
共同製作会社:2M TV、Laterit Productions、Les films du Passag
配給:Taskovski Films

1970年代のモロッコでは、労働者や学生による自由を求める運動の高まりに呼応するように、芸術家たちによる前衛的な表現活動がさまざまな領域で展開された。しかしこれらの運動は強権的な当局によって弾圧され、人びとの記憶から消されてしまうこととなる。本作は、近年スペインでフィルムが発見されたモスタファ・デルカウイ『いくつかの無意味な出来事について』(1974)のフッテージを中心に、当時の写真やポスター、雑誌、音楽を自在につなぎ合わせたコラージュとして提示し、沈黙を強いられ、存在すら消された芸術家たちへ熱いオマージュを捧げる。(AK)



【監督のことば】モロッコに国立のアーカイヴは存在しない。これまでその種の資料は体制側と関係の近い少数の機関によって、最悪の場合は無為に放置され、最良の場合でも都合よく私物化されてきた。EUからの圧力のもとにモロッコ国立アーカイヴ創設を明記した法案が成立したのは2003年だったが、それ以降もこの施設は依然として形ばかりで中身のないままでいる。表向きは資料の参照利用が可能だとしても、体制側のコントロールによってそれが難しい、ときにはアクセスもできない、という状態が続いているのである。つまりは世代から世代へと記憶喪失が執拗に引き継がれ、それとともに創造性も失われてゆくわけだ……。

 地元の映画作家たちはこの問題の取り扱いにつねに意識的に注意している。政権はいままでも、みずからの公式見解と異なるしかたでアーカイヴ資料を扱おうとする者がいるとすぐさま妨害措置を講じている。70年代初頭、ここに手をつけようとした最初で最後の人間であるアフメド・ブアナーニは、自身の作家人生を通じてその代償を支払ってきた。彼の長年にわたる調査が結実した映画『Memory 14』(1971)は、検閲により108分の長さが24分にまで切り詰められている。

 同世代の自国アーティストの大半がそうであるように、私はモロッコの映画やヴィジュアルアートの歴史をまったく知らないなかで作家人生を歩んできた。そんな私が『Memory 14』とブアナーニの手法に刺激を受けて取り掛かったのが、アーカイヴ渉猟の長く困難な探求だったのだ。その作業をすることで、私はようやく先行世代の芸術的創造とのつながりを取り戻せたし、その発見を多くの観客と分かち合いたいという確信も得た。『光の消える前に』は過去についての映画というわけでもない。私の意図は、むしろこのエピソードを呼び出すことで、社会における芸術家や創作の位置づけに疑問を投げかけることにある。こうした問題は芸術がみずからに欠かせない参照先を見失わないよう、たえず検討されていかなければならないのだ。


- アリ・エッサフィ

モロッコ生まれ。フランスで心理学を学び、そののち映画制作の世界に入る。監督作に『General, Here We Are』(1997)、『The Silence of the Beet Fields』(1998)、『Ouarzazate Movie』(2001)、『Shikhat's Blues』(2004)などがあり、それぞれ国内外で広く上映されている。モロッコへの帰還以降は長期にわたって北アフリカの映画映像アーカイヴの調査に着手し、その成果はいくつかの映画やインスタレーション作品のかたちで発表されている。2017年には『Crossing the Seventh Gate』がベルリン映画祭フォーラム部門でプレミア上映され、最新作となる本作は、2020年11月のアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭でプレミア上映された。