ナイト・ショット
Night ShotVisión Nocturna
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チリ/2019/スペイン語/カラー/DCP/80分
監督:カロリーナ・モスコソ・ブリセーニョ
脚本:カロリーナ・モスコソ・ブリセーニョ、マリア・パス・ゴンサレス
編集:フアン・エドゥアルド・ムリーリョ
音響:メルセデス・ガビリア
音楽:カミラ・モレーノ
製作:マカレナ・アギロ・マルキ
製作会社:El Espino Films
配給:Compañía de Cine
8年前に、自身が被ったレイプ事件は加害者の容疑否認のまま不起訴となり、被害者の心身をさらに傷つけるような警察や医療機関に対する不信感だけが残された。映画学校の学生だった監督は、事件後も日記のようにカメラを廻す。家族や友人たちとの交流、ヒーリングへの参加など、癒えぬ傷を抱えた日々を露光オーバーやナイト・モード機能で撮影し、精巧な音響設計を重ね、言葉にならない感情をエッセイ映画として露わにする。性暴力を受けた心身をどう生きるのか、出口の見えない旅を始めた監督の到着地に見る者もともに立ち会う。(HH)
【監督のことば】あのレイプの後に起きた事態を言葉にすることができるなら、それは以前がどうだったかなど何も思い浮かべられないほど底が見えない気分だった、ということになるのだと思う。蓋をして隠すことも、整理して片づけることも許されなかった無数の感情。そんななかこの混沌にいま舞い戻るのは、私自身が15歳ではじめてカメラを手にしてから撮りためてきた映像の数々だ。事件後も変わらぬままだった撮影の習慣が、事態を見通す手がかりを与えてくれるのだ。
映画のために行った調査、母から送られた手紙、そして日々繰り返される性被害が決め手となり、私は放置していた加害者の審理を再開することにした。しかし犯行時の彼は未成年で、審理はすでに時効を迎えていた。打つ手がなく、このさき罪も問われない――そしてこのときわかったことが映画の一部となる。司法は、レイプ事件ではまともに機能しない。
暗くてもろく、無視もできない領域にある一筋の小道に足を踏み入れるなか、そこでもなお芽を生やし、私と不可分のまま思考を助けてくれたのはなによりも映画だった。何度も自分を奮い立たせてこの傷を問いただすことで生まれるこの映画はともすると、私自身と傷たちとの長い対話のようにも見えるのかもしれない。
毎日どこかで女性たちがレイプされている。チリだけでなく、北米でも南米でも、世界中で。しかもいまに始まったことでなく、数千年も前から同じように。私たちは皆そんな現実のなかにいて、いままで都合よく沈黙させられてきた。この映画を作るひとつの理由はこの沈黙だが、私はそれだけでなく、ある断絶を経た内面の経験を語ろうともしている。そしてそれは、これまで苦しんだ他の人が通ってきた道でもある。私がこの映画をつくるのは、どんな傷であれそれが残した痛みについて深く考えるためであり、そこで探し求めているのは、揺れ動く不安定な生の経験のイメージなのだ。
チリ大学映画テレビ学部監督・編集コース在籍。バルセロナのポンペウ・ファブラ大学クリエイティヴ・ドキュメンタリー・コース修士課程修了。これまでいくつかのビデオクリップ、アニメーション、映像・演劇プロジェクトで監督・編集を務め、本作『ナイト・ショット』で初のドキュメンタリー映画を制作。現在は自身の新作『Nunca ser policía』を準備しつつ、ハビエラ・クルト、グレース・ラスカノ両監督による『Históricas』の編集作業を進めている。