核家族
Nuclear Family-
アメリカ、シンガポール/2021/英語/カラー、モノクロ/DCP/93分
監督、脚本、撮影、録音、音響、編集、製作:エリン・ウィルカーソン、トラヴィス・ウィルカーソン
提供:Creative Agitation
幼少期から核戦争のイメージにさいなまれてきた映画監督が、妻とともに幼い子どもを連れ、アメリカで核実験が行われた土地や軍事施設をめぐる。旅で訪れる土地には、かつてのネイティヴ・アメリカンの虐殺の記憶も宿されていた。作り手たちの想像力は、やがて長崎への原爆投下や福島の原発事故にも及ぶ。核実験のアーカイヴ映像とサン・ラ・アーケストラの奏でる「ニュークリア・ウォー」が繰り返し挿入され、人類と核の歴史、反復される暴力が問い直される。(TS)
【監督のことば】戦争行為は肉体や風景に傷跡を残す、放射線を受けた細胞はいまやどれもが戦争の亡霊である、と物理学者カレン・バラッドは書いている。『核家族』の狙いは、そうした亡霊たちに声を与えることにある。彼らは私たちの唯一の希望であるかもしれないのだ。これは家族旅行の物語――草原や山々に点在する終末の合図に取り囲まれ、周囲には大豆畑と先住民居留区と西部のくたびれた町しかない、アメリカ西部の核ミサイル格納庫や亡霊に憑りつかれた開拓地の風景を経巡る道中の物語だ。それはまた、港や鉄道やシルクロードの隊商たちを経由して交易路や移住先沿いに拡散した侵略的外来種の記録でもある。なかでも最大の侵略者は人間たちだ。銃で土地を奪いとれ。その土地をまた銃に変えよ。そしてその銃を、誰彼かまわず脳天に突きつけるのだ。
トラヴィス・ウィルカーソン
2010年、社会変革のための爆弾を投じるべく共同制作を行う創作集団「Creative Agitation」を夫婦で結成、ロカルノやヴェネチア・ビエンナーレといった国際的な舞台で作品発表も行っている。トラヴィスの近作『誰が撃ったか考えてみたか?』(2017、YIDFF 2019)がニューヨーク・タイムズ紙で「家族や父権制や白人至上主義や黒人の抵抗といったプリズムを通した、アメリカの過去と現在への辛辣で切迫したまなざし」と評される一方、エリンは資源採掘の風景史を地球規模で扱うマルチメディア作品を仕上げつつあり、米国移住の懐古的記憶を描いた彼女の映画『The Scents That Carry Through Walls』(2020)はドクフェストとプリズマティック・グラウンドで上映された。夫婦ともに、喫緊の政治的不正義を扱う創作の迅速な公開の場として作家自身が運営するニューズリール・サイト「Now! Journal」の編集委員にも名を連ねている。