アジア千波万波 審査員
村山匡一郎
●審査員のことば
山形国際ドキュメンタリー映画祭は、私の映画人生にとって大きな位置を占めている。1993年から2003年までの10年間にわたって「インターナショナル・コンペティション」の予備選考に携わり、世界中から応募された夥しい数のドキュメンタリー映画を見ることができたからだ。それらの映画は、描かれたテーマも、世界を見つめる視点も、また映像スタイルも実に多種多様な表情を見せていた。そうした映画を浴びるように見ながら、私は多くのことを学ぶことができた。それはまさに至福の学校ともいえた。
この映画祭の素晴らしいところは、既成の観念に縛られることなく、「ドキュメンタリーとは何か」を絶えず問い続けていることだろう。それも作る側ばかりか見る側からも問いかける。制作者と観客が出会い、両者が交流することによって、ともにドキュメンタリー映画について考え、それを通して、映画そのものを問いかける刺激的な場となっていることは、山形の大きな魅力である。
なかでも、「アジア千波万波」は、近くて遠い国々の若い制作者に出会える場として、私が大きな関心を寄せる部門である。社会的だったり、個人的だったり、それらの映画が描く世界は、時代や社会ばかりか自分の生きる環境を自由奔放に切り取っていて多いに魅惑される。そんな「アジア千波万波」の審査員を引き受けることになり、大きなプレッシャーとともに、自由闊達なエネルギーに溢れた若い感性に対する期待と楽しみに胸が膨らんでいる。
1947年生まれ。幼い頃から映画が大好きで、劇映画、記録映画、実験映画などジャンルを超えて見て回る。早稲田大学大学院で映画学を学んだ後、フリーランスの映画評論家、映画研究者として現在に至る。日本経済新聞をはじめ新聞や映画雑誌などで評論活動をするかたわら、多摩美術大学、武蔵野美術大学、イメージフォーラム附属映像研究所など大学や専門学校で映画史や映像学を教える。1993年から2003年までYIDFFの「インターナショナル・コンペティション」の予備選考委員を務める。主な著訳書に『世界映画全史・全12巻』『映画100年ストーリーまるかじり:フランス映画篇』『ケン・ローチ』『映画史を学ぶクリティカル・ワーズ』など。 |