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    チーズ と うじ虫

    The Cheese & The Worms

    - 日本/2005/日本語/カラー/ビデオ/98分

    監督、編集:加藤治代
    撮影:加藤治代、加藤直美、栗田昌徳、中嶋憲夫
    音楽:須賀大郎
    整音:菊池信之、早川一馬、久世圭子
    提供:加藤治代

    余命幾ばくもない母と高齢の祖母とある小さな田舎の町で暮らす監督。澄んだカメラアイが写し出す母の闘病風景、すぐ隣に住む兄家族たちとの何気ない日々の交歓。散りばめられた母の姿を通して、母への愛情と家族の温もりが穏やかにゆっくりと醸造されてゆく。あまりに現実すぎる肉親の死と向き合い、生と死を見つめ、泡沫の時を映像に綴じこめる。じんわりと伝わってくるその感触。やがて、天使が舞い降り、私たちを見つめている。



    【監督のことば】ある日突然、母が余命1、2年と告げられました。

     発病から3年目に小さなビデオカメラを買いました。母が治ることを無邪気に信じていた私は、テレビや映画によくある“奇跡”を記録することを夢見ていたのです。しかし現実の生活は、平凡で退屈で同じことの繰り返しであり、小さなカメラはよくある家族のよくあるホームビデオを記録することしかできません。でも逆に母の病状が悪化し、苦しんだり悲しんだりする段になると根性と無縁の私ですから、側にいて必死に見続けることが精一杯で、カメラを持つことなどまったくできないのです。母が本当に苦しんでいる時、悲しんでいる時、そして死んでいく時、私はなにひとつ撮ることができませんでした。

     母の死後、私は初めてある覚悟をもってカメラをまわしはじめました。なぜなら、残された者は赤ちゃんのように泣きながら、それでも前に這って行かなくてはいけません。そしてもしこの苦痛と喪失感のなかに、なにか大切で優しい大きな意図を見つけることができなければ、どうしても私には母の死が納得できなかったのです。

     私が撮ることができなかった沢山の悲しい出来事はある意味、私にとって撮る必要が無かったことかもしれません。なぜって私は今でも痛みを持ってそのことをきちんと思い出すことができるのですから。それよりも、映像に記録していなければ記憶にさえ残らないような、あの平凡で単調でそれでいて辛い母との時間が、ビデオを通して甘美で優しい普通の幸せに変わっていったことが、今は愛おしく感じられてならないのです。


    - 加藤治代

    1966年生まれ。群馬県在住。多摩美術大学美術学部芸術学科卒業後、スチールカメラマンのアシスタントを経験。劇団黒テントに2年間在籍後、母の発病で帰郷。