何も知らない夜
A Night of Knowing Nothing- インド、フランス/2021/ヒンディー語、ベンガル語/モノクロ/DCP/100分
監督、脚本:パヤル・カパーリヤー
脚本:ヒマーンシュ・プラジャーパティ
撮影、編集:ランビール・ダース
録音:モイナク・ボース、ロマン・オザンヌ
ナレーション:ブーミスター・ダース
製作:トマス・ハキム、ジュリアン・グラフ、ランビール・ダース
配給:Square Eyes
映画を学ぶ学生のL(エル)が恋人へあてた手紙が学生寮の片隅で発見された。女性の朗読に託された架空の物語は、Lの恋愛の破局の背後にあるカースト制へと導かれ、さらに2016年に実際に起こった政府への抗議運動、極右政党とヒンドゥー至上主義者による学生運動の弾圧事件へと接続される。若者の日常の光景、Lの悲恋の逸話、路上デモや警官との衝突のシーンにおける緊迫した闘争の様子がモノクロームの映像の中で融合し、フィクションと現実が境界をなくしていく。抵抗する者たちの情熱や信念、映画作家たちの意志の記録とともにインドの現在を描き出す。(YM)
【監督のことば】私たちは2017年に撮影を開始し、自分たち周辺の生活の記録に始まり、つづけて友人たちを記録し始めた。パーティー、誕生日、午後の長い昼寝など、広範囲に撮影した。自分たちのしていることを常に理解していたわけではなかったが、よく知る人たちの間では、撮影は親密で身近なものだった。時が流れても、映画がどうなるかはまだ見えていなかった。シークエンスをまとめ始めると、他大学の友人たちが、記録する必要に迫られて撮影した映像を提供してくれたが、その目的は私たち同様に不明瞭だった。友人から借りたラッシュ映像、家族の古い記録動画、インターネットでバズった動画など、私たちはさらに多くの映像を見つけた。私たちが集めた映像は、私たちが生き、目撃してきた時代の記憶のアーカイブとなっていった。やがて、私たちが撮影した映像でさえも、私たち自身の過去をおさめたタイムカプセルとして、まるで「発見された物」 のように感じられ始めたのである。
この映画は、インドの公立大学制度へのオマージュである。インド社会では何世紀にもわたり、一部の人々が教育を受けることを否定されてきた。公立大学制度は、こうした歴史的な過ちを正すために作られたものだ。カーストその他の差別がいまだに構造的に存在するため、必ずしもこの制度が成功したとは言えないかもしれないが、それでもなお、物理的にも知的にも、真の自由のための余地を提供する可能性はある。神聖で不可侵なものは何もなく、すべてを疑問視する必要があるのだから。このような自由こそ、私たちが未来の世代のために希求しなければならないものであり、手にした若者たちが、自分たちを縛る社会から自由になるために必要なのだ。この映画は、穏やかで女性的な声を持つ視点から語られる長い夢である。
ムンバイを拠点とする映画制作者・アーティスト。インド映画テレビ学院で映画演出を学ぶ。短編映画の『Afternoon Clouds』(2017)はカンヌ国際映画祭のシネフォンダシオン部門で、『夏が語ること』(2018、YIDFF 2019)はベルリン国際映画祭で、それぞれプレミア上映された。ベルリン国際映画祭ベルリナーレ・タレンツの修了生であり、2019年にはカンヌ国際映画祭のレジドンス・デュ・フェスティバルにも選ばれた。初の長編作品である本作は、2021年カンヌ国際映画祭監督週間で上映され、ゴールデンアイ賞(最優秀ドキュメンタリー賞)を受賞した。現在は、Ciclic(フランス), ヒューバート・バルス基金(ロッテルダム国際映画祭)、パトリック&ジョーン・リー・ファーマー芸術基金(英国)の支援を受けた『All We Imagine as Light』を制作中。