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日々“hibi”AUG

"hibi" AUG

日本/2022/日本語/カラー/DCP/120分

- 監督、撮影、編集、録音:前田真二郎
使用曲:室内楽《変容の対象》(作曲:福島諭+濱地潤一)
演奏:山内敦子、木村佳、福島諭、濱地潤一
提供:SOL CHORD

作者が設定した「撮影/編集ルール」に則り、8月の「連日15秒×31カット」を15年間連ねることで生まれた長編。ルールとは、 満月の日は深夜0時に撮影するなど月の運行に準じて毎日撮影時間帯をずらし、撮った映像から15秒を切り出しつなげていくというものだ。約1か月かけて日の出から日没までの時間を映像に推移させ、撮影できなかった日には日付が表示される。ショットの集合体は互いに連関しないが、時折挿入される音楽や朗読により撹乱され、そこに作者のまなざしがふと立ち現れる。見る者の記憶を呼び覚まし、意味から解き放ち、新たに記憶を紡ぐための、映画の試み。(KH)



【監督のことば】『日々“hibi”AUG』は作者が設定した撮影・編集 ルールに従って取り組んだ作品だ。毎日撮影した映像を15秒ずつ順番につなげて映画を制作した。撮影内容は主に偶然出会った日常風景で、特定の場所や知人、語りを収録した日もあった。カットのつながりを想像しながら撮影は即興的に行った。本作の目的は作者の生活を正確に記録することではない。映像が事実の集積だとしても、映画内部には現実とは異なるもう一人の作者「前田真二郎」が現れる。その一人称の「まなざし」が映画世界を導く主人公だ。

 当初、仕事が比較的落ち着いているといった軽い理由から8月を選び、毎年撮影することを決めた。制作を開始すると、日本の8月は、広 島と長崎に原爆が投下され、第二次世界大戦が終結した月であり、 先祖や故人を迎えるお盆がある特別な月であることを意識するようになっ た。

 制作期間は、リーマンショックが起きた2008年からロシアがウクライナに侵攻した2022年までの15年間。この間、東日本大震災が発生し、 総理大臣は何度か交代し、年号は平成から令和に移行し、2020年にはCOVID-19の感染が拡大した。別の観点では、スマホやSNSが社会に浸透した時期と重なる。また、主人公(=作者)は、結婚式を2度挙げ、癌の手術を経験したことに気がつく人もいるかもしれない。この映画は、21世紀初頭の15年間を生きた、ある個人の「まなざし」の記録である。その「まなざし」は、まるで、テロリストの「まなざし」のように見える時もあったのではないか。

 観客はスクリーンに映し出される無数の「見たことのあるもの/見たことのないもの」を見つめながら、それらと自分の記憶を重ね合わせるだろう。そして突然忘れていた事柄を思い出すかもしれないし、あるいは人間に備わる「忘却」を実感するかもしれない。映画が観客自身の記憶と結びつき、新たな意味を生み出す瞬間を期待している。


- 前田真二郎

1969年、大阪府生まれ。岐阜県在住。90年代初頭か ら、実験映画、ドキュメンタリー、メディアアートなどの 領域を横断しながら映像作家として発表を続ける。美術家や音楽家、パフォーマーとの共同制作を積極的に行い、手法は、写真、映像マッピング、ライブ上映、オンライン配信など多岐にわたる。映像レーベル SOL CHORDの監修を務め、DVD出版やWEBムービー・ プロジェクトにも力を注ぐ。近年は、映像メディアを「未知を発見する装置」と捉え、作者が撮影した無意識を含む「記録」を、自ら設定した規則に基づいて作品化する方法を実践。情報科学芸術大学院大学(IAMAS)教授。