日本プログラム
そこで食えるか、死ねるか、愛せるか――見つめることの倫理
「見たという一言がやはり私にとって決定的であり、一回性のもつ不可遡的な出遭いであったことにつきるのである。しかも私は撮った」(土本典昭「記録映画作家の原罪」、1978年)――2021年から2023年にかけて制作された日本のドキュメン タリー映画の中から、独自の視点で日本をとらえた作品を紹介するプログラム。撮ることによって孕まざるを得ない、いまここでしか出会うことのない対象との関係と誠実に向き合い、映像そのものを媒介に私たちの世界を思考する映画について、土本の言葉とともに考えたい。
災禍を記録することの倫理と映像の力を改めて考察する『キャメラを持った男たち ―関東大震災を撮る―』。キャメラを通し、両親の責任とそのあり方を問う『どうすればよかっ たか?』は20年にわたる家族の葛藤の切実な記録である。半世紀にわたり平和を訴え続け、陸上自衛隊の演習場で牛の放牧を夢見て生きる一家をユーモアを交えつつ描く『日本原 牛と人の大地』。三味線を伴奏に喜怒哀楽の情を表現する浪曲の世界。芸に生きる人々の伝統と継承をうねりとともに謳いあげる『絶唱浪曲ストーリー』。大都市の中にひっそりと息づく生命と身体感覚を映画のフィールド・レコーディングの試みと重ね合わせようとする『Oasis』。
スタイルに拘泥することなく、時間の厚みの中で、ある場所で生きる/生きざるを得ないことをアクチュアルに、真摯に訴えかける5本の映画を上映する。