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交差する声

Crossing Voices
Xaraasi Xanne

フランス、ドイツ、マリ/2022/フランス語、ソニンケ語、プラール語、バンバラ語/カラー、モノクロ/DCP/123分

- 監督:ラファエル・グリゼー、ブーバ・トゥーレ
撮影:ブーバ・トゥーレ、ラファエル・グリゼー スチル撮影:ブーバ・トゥーレ
編集:ラファエル・グリゼー、チャギグ・アルズマニヤン
音響、整音:ヨヘン・イェズュセック(poleposition d.c.)
記録調査:レア・モラン、ラファエル・グリゼー
ナレーション:ブーバ・トゥーレ 
歌:マ・ダンバ、シラ・ドラメ
話し手:マリアム・シソコ、ママドゥ・ソウ(Radio Rural de Kayes)
製作:オリヴィエ・マルブフ
製作会社:Spectre Productions, Weltfilm GmbH, The Dark
提供:ラファエル・グリゼー

1977年にマリ人移民労働者らによって設立された農業共同体ソマンキディ・クラ。パリの工場で安い賃金で搾取され、劣悪な環境で暮らしていた彼らが、農民として自立し豊かに生きることを目標に、マリに戻り土地を得て灌漑を行い、作物の栽培を開始した。設立者のひとりブーバ・トゥーレによりパリの路上とソマンキディ村で記録され続けてきた膨大なアーカイブ写真と映像、そして収集された音源が、ひとつの芸術実践として編集され、そのラディカルな抵抗・帰還運動をよみがえらせる。植民地時代以降の同胞の苦難から、グローバル企業による大規模農業の弊害まで、アフリカの人々と大地が経験してきた近現代史を見つめる、一当事者による力強い記録。(HA)



【監督のことば】

「私にとって時間はとても大切で、死にたくならないようにいつも時間とともに歩んでいる。私は映画をやっているわけではない。ただ、自分の後もこの時間がとても大切でありつづけるように時を生きていたいだけだ。」

ブーバ・トゥーレ、2008年

 2022年、本作がお披露目上映された日の数週間前にブーバ・トゥーレはこの世を去った。彼は一方でアフリカ諸国の独立の余波のなか1960年代に渡仏して第二次世界大戦後の同国を再建しようとした「アフリカ系移民労働者」の生と奮闘を、他方では西アフリカのソニンケ地域圏セネガル川流域で暮らす農村民たちを、自らの息が途絶えるまで記録しつづけた人だった。彼との15年にもおよぶ協働作業は、物事に深く耳を傾け、信頼にもとづく意見交換をし、たえず学びつづけるプロセスそのものだった。ブーバは自身の実践において、複数の世代、複数の地理のあいだに線を引き、あるべき場所になかった諸々の世界を組み立て直すことを目指していた。本作はやむにやまれぬ事情により、紆余曲折あった彼の生とその思索、そしてまたソマンキディ・クラ協同組合計画の成立過程への手向けとなってしまったが、残された親族および友人たちは現在、この映画の普及活動と並行して、人々が彼の仕事と語りに触れてそれが広まるよう、またその汎アフリカ的教育思想が世界に届くよう、ブーバ・トゥーレの著作と写真作品のアーカイブ化に向けた目録づくりに取り組んでいる。この意味で、私たちの映画をヤマガタで紹介する機会が得られたことはすばらしく光栄なことであり、それは私にとっても観客たちにとっても、ブーバ・トゥーレと小川紳介が牧野村をそぞろ歩きつつソマンキディ・クラの村でもその続きを語りあう、そんな会話から始まる物語を夢想する機会ともなるだろう。


- ラファエル・グリゼー(左)、ブーバ・トゥーレ(右)

ベルリン在住の映像作家・映画作家であり、フィルムや編集実践の手段を用いて記憶や移民や農業をめぐる政治の問題に取り組むラファエル・グリゼー(1979年生まれ)と、農民、労働者、映写技師、また写真家として、1970年代よりフランスの移民労働者およびマリの農民たちの生と奮闘をその内部から記録しつづけ、1977年にマリでソマンキディ・クラ農業協同組合を仲間とともに設立したブーバ・トゥーレ(1948年生まれ、2022年没)。ふたりは2006年より、研究調査、記録保管、映画制作、演劇、ワークショップ、出版などを協働で行うプロジェクト「ソマンキディ・クラに種をまく――生成的アーカイブ」にともに取り組み、本作『交差する声』は映画祭をはじめ、さまざまな会場で展示・上映され、シネマ・デュ・レエルでの受賞歴もある。