English

ある映画のための覚書

Notes for a Film
Notas para una película

チリ、フランス/2022/スペイン語、フランス語、マプチェ語/カラー、モノクロ/DCP/104分

- 監督、脚本:イグナシオ・アグエロ
撮影:ダビド・ブラボ
編集:クラウディオ・アギラール、イグナシオ・アグエロ、ジャック・コメ
録音:カルロ・サンチェス
製作:テアニ・スタイゲル、ビビアナ・エルペル、エリーサ・セプルベダ、アマルリック・ドゥ・ポンシャラ
提供:Aguero & Asociado ltd.、Fulgurance Films

19世紀、チリの一部となったばかりの先住民族マプチェの土地アラウカニア。鉄道建設の技師としてギュスターヴ・ヴェルニオリーがベルギーから赴任した。監督は、彼の日記をもとに俳優を配して足跡を辿り、往時の冒険を回想する。スタッフ、監督自身が時間軸を超えてフレームの中と外を自在に行き交いつつ、鉄道遺構、風景、人々の間を往還する映画の試みは、同時に、植民地化の深い傷跡が残るマプチェ・コミュニティで続く土地闘争を描き出す。本作は、アラウカニアの土地の記憶と現在に生きる個々人の経験を等しく見つめることで、ひいては世界と映画に対する新しいアプローチを実践している。(HH)



【監督のことば】チリ南部、アラウカニアの地で鉄道建設の技師として働くために同国へやってきたギュスターヴ・ヴェルニオリーがとある駅に降り立つと、そこはアンゴル駅――いまはもはや存在しない駅である。彼は過去を旅して現在にたどり着く。それまでのあいだに、彼が19世紀末に建設したものはすべて、ピノチェトの独裁が始まって間もないうちに破壊されてしまっている。これがフィクションだったなら、ヴェルニオリーは劇中においてセットで再現された駅に降り立っていたことだろう。でもこれはドキュメンタリーなので、彼はここでは廃墟となった駅に到着するわけだ。

 ヴェルニオリーの日記を収録した書籍『アラウカニアでの10年間』の文章をもとに、映画はこの人物、また彼を演じる俳優を通して、荒野への鉄道進出やチリ先住民居住地域への資本主義の移植の様子を探索してゆく。ただしそれはドキュメンタリーの経済事情でもってなされるので、当時の衣装をまとうのはひとりだけ、馬は一頭で、撮影クルーはスタッフもエキストラも同時にこなしている。

 本作はそれゆえに映画のもつ遊びの可能性を通して歴史を探索することができるのであり、結果として観る人ばかりでなく、作り手側にとっても魅力的な体験となるのである。


- イグナシオ・アグエロ

1952年、サンティアゴ生まれ。建築と映画を学び、現在はチリ大学で映画を教えつつ、子ども向け映画ワークショップを主催するネットワーク団体「Cero en Conducta(操行ゼロ)」の一員としても活動する。1974年より数多くのドキュメンタリーを制作し、受賞歴も多数。ヨーロッパやアメリカでは過去作品の回顧上映も開かれている。YIDFFには1989年の初開催時に来日し『100人の子供たちが列車を待っている』を上映。現在は次回作『Cartas a mis padres muertos(亡き両親への手紙)』の制作に取り組んでいる。