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笑う猫事件

The Case of the Grinning Cat
Chats perchés

- フランス/2004/フランス語/カラー/ビデオ/58分

監督、撮影:クリス・マルケル
製作:ローランス・ブロンベルジェ
製作会社、提供:レ・フィルム・デュ・ジュディ

2001年9月11日の同時多発テロ事件から数ヶ月後、パリの街角で「M.CHAT」の落書きを目にしたマルケルは、笑う猫のヒューマニズムに感動し、その足跡をたどり始める。フランス大統領選挙、イラク戦争、スカーフ論争など、2000年代初頭に起きた政治的、社会的出来事と「M.CHAT」の出現を交差させて描いた現代の肖像。


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オリンピア52についての新しい視点

New Regard about Olympia 52
Regard neuf sur Olympia 52

- フランス/2012/フランス語/カラー/Blu-ray/80分

監督:ジュリアン・ファロー
製作会社:INSEP、フィルム・ア・サンク
提供:タマサ・ディストリビューション

1952年、クリス・マルケルは、『オリンピア52』という、ヘルシンキオリンピックについてのドキュメンタリーを撮影する。この映画は、マルケルの最初の映画監督作品となったが、長らく本人の意向によってお蔵入りとされていた。その60年後、ジュリアン・ファローは、マルケルから了承を得て『オリンピア52』のイメージを再構成し、マルケルの撮影手法の革新性を再発見した。




特別企画 ザッピング・ヤマガタ

- ポンピドゥーセンターのクリス・マルケル大回顧展開催(10/16〜12/16)を目前に控え、キュレーターのエティエンヌ・サンドラン氏が緊急来日。マルケルの世界を映像、写真、朗読、テキスト、音楽で多面的に紹介する。

講演:「猫頭の男
エティエンヌ・サンドラン
(ポンピドゥーセンター/ニューメディア部門キュレーター)
朗読:ル・デペイ(異/故国) 
エティエンヌ・サンドラン
福崎裕子(クリス・マルケル・ファンクラブ会長)



終わりに、そしてその始まりに。

 10年振りの復帰ではあるが、山形映画祭のコーディネーターとしては、ベテランの域に達していると多少なりとも自負している。なので、コネチカット州の自宅に届いた長いクリス・マルケルの作品リストを受け取ったときも動じることもなく、滑り出し順調に私のマルケルへの旅は始まった。が、それもつかのま、言語や文化習慣の相違は、想像以上に交渉を困難にし、迅速に進められない状態が混迷と葛藤を生み、マルケルの長年のキャリアに伴う作品本数の多さゆえの素材の多様性、さらには、英語字幕付きの仏語作品がほとんど存在しないと聞かされたときは、おもわず頭を抱え込んでしまった。マルケル自身がそれを好まなかったのだ。例えば、代表作『サン・ソレイユ』は、フランス語、英語、ドイツ語、そして日本語の吹き替え版があり、各国のナレーターの選択はマルケル自身の意向を反映している。映像(静・動画)、テキスト、音楽、ナレーション、それぞれのタイミングや構造は精緻にデザインされ、マルケルは、交響楽団の指揮者のごとく作品を奏でる。そうして、マルケルの作品群は、ますます膨張し、さらなる複雑性や知性を孕む。

 本プログラムでのマルケル作品と山形映画祭の出会いは、あらたな層を形成し始め、それは、いつのまにか各ジャンルに波及し、今まで現場のプロとしてやってきた、どのスタッフにも、あらたな試みとアップデートを余儀なくされている。その上、神出鬼没の猫のギヨーム(マルケルの分身)は、磁気のように様々なものを引き寄せてくる。それらはサイバー上のリンクのように、絡み合い、共鳴し、山形という場所や個の記憶と結合しては、観客の前に姿を現すだろう。

 マルケル特集を遂行するにあたり、多くの方々のご意見、ご協力をいただいた。この場をかりて、お礼を申し上げたい。

- 小野聖子(プログラム・コーディネーター)