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審査員
陳凱欣 (タン・カイシン)


- ●審査員のことば

 20年以上前にアジア千波万波で私の映画が上映されて以来、コロナ禍以降初めて対面で開催されるYIDFFに審査員として戻ってこられることにわくわくし、また、身の引き締まる思いでもある。

 プーチンや、金権政治の時代、そして少数派に追いやられている人々への執拗な迫害と反発の時代に、私たちはこれまで以上に、省察を促したり新たな視点を切り拓くアートを必要としている。

 フェイクニュースやAI、ストリーミング、メディア漬けといった時代の中で、映画、とりわけドキュメンタリー映画は、エキサイティングな可能性を提供する存在だ。

 つい最近アピチャッポン・ウィーラセタクンも語っていたように、映画には「存在の共有感」があり、「苦しみ」だけでなく「喜び」も共有できる。その通りだと思う。YIDFFは、この伝説的な映画監督が2001年にインターナショナル・コンペティション優秀賞を受賞した場所である。私もその時、幸運にも彼に会うことができた。

 1989年以来、映画とアートのエコロジー(生態系)において、ありふれたものから神話的なもの、厄介なものから不思議なものまで、テーマやジャンルを超えて、事実とフィクション、真実と希望の間に掛けられたロープの上で美しく踊るような大胆なビジョンを受け入れ、育てるという重要な役割を果たしてきたのがYIDFFだ。

 そして今年、なんと多彩な作品が揃ったことか! 移民、音楽、ミャンマー、メンタルヘルス、ムスリムのアイデンティティに関する考察、などなど。

 私は現在、創造性、反抑圧、未来性、それに希望に焦点を当て、「リーダーシップ」の新しい定義を探求する3冊の本に取り組んでいる。だから、ドキュメンタリー映画制作だけでなく、人類の未来を示すことができる、新しい、先見性のある明日のリーダーたちの仲間入りができることをどれほど光栄に思っているか、言葉ではとても言い表せない。


陳凱欣(タン・カイシン)

変革を原動力として創作活動をする多動的なアーティスト、研究者、アドバイザー、アジテーター。映画では、監督(BBCカルチャー・イン・クアランティン、サンフランシスコ国際映画祭ゴールデン・ゲート賞)、プロデューサー(アヌシー国際アニメーション映画祭選出)、ビデオ・アーティスト(MOMA)、キュレーター(Cinema South Festival)を務める。作品は福岡市美術館やロンドン美術館に収蔵され、「折衷的なスタイルと小生意気な態度」(シドニー・モーニング・ヘラルド紙)や「ポジティブな雰囲気」(ガーディアン紙)を持つと評される。現在はサウサンプトン大学で芸術文化リーダーシップの准教授。



塩素中毒

Chlorine Addiction

シンガポール/2000/英語/カラー、モノクロ/ビデオ/44分

- 監督、脚本、撮影、編集、録音、ナレーター、製作:陳凱欣(タン・カイシン)
音楽:フィリップ・タン
提供:陳凱欣

毎日1キロ泳がないと気がすまないというマルチ・アーティストが綴る、10章構成のユーモラスな映像エッセイ。言葉遊びをふんだんに盛り込んだ早口のナレーションと、矢継ぎばやにたたみかける映像が洪水のように押し寄せてくる。これを視聴する体験は、シンガポールという特異な街の現在にどっぷり浸ることのようでもあり、またその余韻はプールの温水に入っていた塩素が少しずつ身体を蝕んでいく危険な快楽にも似ている。



目指そう、明るい2050年! 食指が動くタコ足指南

How To Thrive In 2050: 8 Tentacular Workouts For A Tantalising Future!

イギリス/2021/英語/カラー/デジタル・ファイル/14分

- 監督、脚本、撮影、編集:陳凱欣(タン・カイシン)
音楽:フィリップ・タン
アニメーション:ゼイネブ・ベレス
エグゼグティブ・プロデューサー:ジョンティ・クレイポール、ラミア・ダブシ、ナタリー・ウールマン
製作:エリカ・コンシ
出演:べサニー=アン・アーノルド、オライオン・コリガン=アーノルド、ボブ&ロベルタ・スミス、ジェームズ・スミス、陳凱欣
提供:陳凱欣

コロナ禍、猫の顔を持ったタコと化した陳凱欣(タン・カイシン)。チアリーダーでアジテーター、シリアスでプレイフル、聞き手であり媒介として、唯一無二のキャラクター「オクトプッシー」が8本の足を駆使し、他のアーティストたちと現在からアートフルな未来を思考する、パフォーマティブな短編作品。