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[シリア、エジプト]

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シリア、エジプト/2021/アラビア語/カラー/DCP/69分

- 監督:ニダール・アル・ディブス
撮影:マハムード・ロトゥフィー
編集:ミシェール・ユーセフ・シャフィーク
音響:マックス・シュナイダー
製作:ムスタファ・ユーセフ
提供、配給:Seen Films seenfilms.com

シリアにも変革の波が起きるかに思えた2011年。カイロに身を寄せた監督一家は、ついにダマスカスに帰ることが叶わなくなる。留守宅の様子を伝えるスマホ動画からは、思い出とともに、包囲や爆撃で市民生活が破壊されていく状況も刻一刻と伝えられる。制作中だった映画――故郷ホムスの映画の原体験、生活の拠点だったシネクラブ――を記憶で再構築しながら、その灯を絶やすまいと、放置されたカイロの映画館の中へ分け入る。映画があるから生きていける。監督は、娘の成長を記録する行為に光を見出すように、各地に散らばった映画人の物語を紡ぐ。(WM)



【監督のことば】平和でない時代には、共有空間だけでなく、私的な空間も見捨てられる。この映画の撮影中、私はダマスカスの懐かしいわが家を思い出しながら、破壊された家屋から友人たちが、わが家に避難することを聞いた。主がいない家、祖国には突如、見知らぬ友人が現れ、別なる生で満たされるというわけだ。この廃墟と化した映画館に初めて足を踏み入れた時、私はエジプト革命3周年のシネマ・ワハビーのグランド・オープニングでこの映画を上映するシーンを夢想した。

 近隣の人々は皆この映画館に思い出があった。私たちは撮影を開始し、改装が始まり、多くの人が過去の逸話や、この地域が復興し、賑わう未来への夢を私たちに語りたかったのだ。カメラを持った私の存在は受け入れられ、歓迎されもした。しかし、改装は頓挫し、私たちは反感を感じた。私たちに対する直接的なものではなく、希望を失ったことによる反感だ。

 私たちクルーは、撮影によく協力してくれていた人々が突然私たちのことを忘れてしまう瞬間に何度も出会った。それは夢が現実になることを忘れてしまったこの国の状況とよく似ていた。映画が奪われたことで、映画というものへの興味も徐々に失われ、安全保障や経済的な不安が取って代わったのだ。そんな人々の失望と苦悩も映画は捉えた。そして私たちもまた、この国に生き、同じ絶望を感じ、革命の夢を失っているのだ。

 しかし、この作品は政治やイデオロギーや革命についての映画ではない。同様この国が革命の夢を失ってしまったのと同じ喪失の思いが、忘れ去られたかもしれない街角のごくごく小さなプロジェクトを覆っているのだ。私たちは映画そのものだ。今、私は当時の状況を振り返って分析してみては、自分もまた夢見ることに大胆だったのだろうかと問うのだ。


- ニダール・アル・ディブス

1960年シリア生まれ。建築家、映画監督。1995年にモスクワの全ソ国立映画大学(VGIK)を卒業。手がけた作品の多くが国際的に高い評価を得ている。短編『Ya Leil Ya Ein』(1999)はクレルモン=フェラン国際短編映画祭(フランス)のオフィシャルコンペティション部門に選出された。長編『Under the Ceiling』(2005)はモントリオール世界映画祭で上映され、サレー国際女性映画祭(モロッコ)で審査員賞を、オラン国際アラブ映画祭(アルジェリア)で最優秀女優賞を受賞した。ドキュメンタリー『Black Stone』(2006)はイスマーイーリーヤドキュメンタリー&短編国際映画祭(エジプト)でスペシャル・メンションを受賞し、2013年ロカルノ国際映画祭に正式出品。前作『Taming』(2010)はアブダビ映画祭でプレミア上映された。