幻灯の映す家族
幕藩期から独自の発展をとげ、明治期には代表的な視聴覚教育メディアとして広く普及した「幻灯」――光源とレンズを用いた静止画像の拡大映写装置――は、映画時代の到来により衰退したと考えられてきたが、実際には戦時期に復興、占領期から戦後の1950年代にかけ、教育や社会運動の現場でユニークな存在感を発揮し、自主製作・自主上映活動も盛んに行われた。2011年の「幻灯の季節2」に引き続いての特集上映となる今回は、戦後日本の「家族」の知られざる姿をさまざまな角度から映し出すロールフィルム式幻灯5本を上映する。
共催:早稲田大学演劇映像学連携研究拠点平成25年度公募研究「昭和期日本における幻灯(スライド)の復興と再発展」(研究代表者:鷲谷花)
助成:公益財団法人三菱財団
協力:神戸映画資料館、一般財団法人大阪国際児童文学振興財団、熊本学園大学水俣学研究センター
トラちゃんと花嫁
Tora-chan and the Bride- 製作年不詳
製作:小西六写真工業株式会社
作:松嵜與志人
画:古沢日出夫
日本動画製作・政岡憲三演出の同名短編アニメーション映画(1948年、モノクロ)のカラーフィルムによる幻灯化。作画は漫画家としても活躍した名アニメーター・古沢日出夫。トラちゃんのお姉さんの結婚を題材に、新憲法下の恋愛結婚の自由を啓蒙する。(紙屋牧子)
痛くないお産 第一部 無痛分娩の知識
Painless Childbirth, Part 1: Understanding Painless Labor- 1955年頃
監修:日本赤十字社産院、菅井正朝、謝国権
写真:佐藤省三
漫画:早瀬二郎
描画:上野武夫
製作:谷川義雄
協力:蒼樹社
製作会社:プロダクション星映社
神戸映画資料館所蔵
占領終結後のソ連医学受容の一環として、日本でも注目を集めた「精神予防性無痛分娩法」を啓蒙する幻灯。妊娠・出産についての不安や偏見を産前教育で解消すれば、麻酔なしの無痛分娩が可能と説く。「妊娠・出産」をめぐる思想闘争の資料としても興味深い。(鷲谷花)
暮らしのくふう 嫁の座 ―農家の婦人の暮らし方―
Lifestyle Improvements--the Role of the Wife: Life for Women in Farming Families- 1954年
製作:暮らしのくふう製作委員会
協力:丸岡秀子、矢口光子
出演:山形県南村山郡滝山村 阿部善勇氏ご一家
配給:朝日スライド株式会社
*神戸映画資料館所蔵オリジナルプリントから複製したニュープリントを上映(協力:IMAGICA WEST)
農家の女性の地位向上と意識改革を啓蒙する、農村向けの生活改善指導幻灯。山形県の農村を舞台とし、実在の家族が出演している。製作には、GHQの農村民主化政策により1948年に新設された農林省生活改善課も参与。1954年に第三回読売スライド文化賞受賞。(紙屋牧子)
にこよん
Nikoyon- 1955年頃
製作:全日自労・飯田橋自由労働組合
脚本、演出、撮影:桝谷新太郎
配給:日本幻灯文化社
神戸映画資料館所蔵
“にこよん”と呼ばれた日雇労働者たちの自作自演のセミドキュメンタリー。脚本・演出・撮影の桝谷は、現場の仲間との議論を重ねた結果、当時としては珍しく女性労働者を主人公にした脚本へ改訂し、カンパを募りながら7ヶ月を費やし完成させたという。(紙屋牧子)
自転車にのってったお父ちゃん
Daddy Went on a Bicycle- 1956
製作:東大セツルメント川崎こども会
作画、構成:加古里子
配給:日本幻灯文化社
*熊本学園大学水俣学研究センター所蔵オリジナルプリントから複製したニュープリントを上映(協力:IMAGICA WEST)
絵本作家・加古里子(かこ さとし)が、デビュー前に参加していた東大川崎セツルメントのこども会活動の一環として、地域の子どもたちと共同で自主製作した幻灯の1本。実際に起きた労災事故の犠牲者の遺児による作文と画をもとに、取材と討論を重ねて完成されたという。(鷲谷花)