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映画祭2005情報

私映画から見えるもの
スイスと日本の一人称ドキュメンタリー


 一人称の「私」が語る物語にはどのような可能性があるのだろうか。山形と交流の長いスイス・ニヨンのヴィジョン・デュ・レール映画祭と共同企画で、日本・スイスの「セルフ・ドキュメンタリー」の最近作を上映する。ゲストを迎えてディスカッションを重ね、現代の私映画とその表現を探る試み。この企画は 2006年4月にヴィジョン・デュ・レール映画祭でもリレー開催される。


日程:108日[土]−10日[月・

連日上映 会場:中央公民館4F大会議室

6つの上映プログラムでは、ロバート・フランクや河瀨直美など知名度の高い作家や、卒業制作が完成したばかりの学生、実験映画の先駆者など幅広い作り手の新しい私映画が上映される。カメラを持った若者が親と対面するタイプのパーソナル・ドキュメンタリー(『パリッシュ家』、『針間野』)は洋の東西を問わず健在だ。スイスからは4つの公用語(ドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語)文化圏それぞれの視点を反映した作品群が集まり、現代のスイスを映し出す。また、日本の日記映画の系譜は鈴木志郎康から前田真二郎まで、確実に継承が見られる。集団制作をした佐藤真の『阿賀の記憶』、女優を起用した『影』、2005年のイメージフォーラム・フェスティバルで大賞を受賞した『ははのははもまたそのははもその娘も』など、一般的には一人称ドキュメンタリーと思われない実験性に富んだ作品も要のラインアップだ。

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連夕 会場:瑳蔵(さくら)

日本の伝統的お蔵を改造したカフェ・ギャラリー瑳蔵がスイス・カフェに変身。本プログラム開催中は毎夕、日英同時通訳つきのシンポジウム会場となる。他プログラムからもゲストを招き、ドキュメンタリー論が白熱しそう。

10月8日[土]16:30 ディスカッション「記憶と再生」
10月9日[]19:30 ディスカッション 「のぞき見趣味と癒し」
10月10日[月・]17:30 レクチャー「スイス政府の芸術文化支援」 、ディスカッション「身体と主観」


PROGRAM A 痕跡を求む

108日[土]10:00

ピゼット(最後の年かもしれない)
スイス/2003/ロマンシュ語/カラー/35mm/52分
監督:イヴォ・ゼン Ivo Zen
アルプスの谷間の農場で作者の老いた伯父夫妻が牛を飼い牧草を手で刈る。牛一頭一頭を名前で呼び情をかける小規模農業のスローライフは「もう今年が最後の年かも…」と老人は毎年つぶやく。かつて背を向け都会へ出て行った甥の作者が、幼少時代の思い出とロマンシュ文化への哀愁を誠実で静かな視線で捉える。
阿賀の記憶
日本/2004/日本語/カラー/16mm/55分
監督:佐藤真 Sato Makoto
名作ドキュメンタリー『阿賀に生きる』から10年、撮影隊は新潟の阿賀野川のほとりに暮らす人々を再訪する。魅力的だった彼らの多くは亡くなっている。今は荒れてしまった田や主を失った囲炉裏を見つめ、人々の痕跡に記憶が重ねられる。
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PROGRAM B 甦らせる

108日[土]13:00

ムービング・ピクチャーズ
アメリカ/1994/無音/モノクロ+カラー/ビデオ/16分
ザ・プレゼント
アメリカ/1996/英語/カラー/35mm/24分
監督・撮影・録音:ロバート・フランク Robert Frank
編集:ロバート・フランク、ローラ・イスラエル
20世紀を代表するスイス生まれの写真家ロバート・フランクは1950年代から映画づくりを続けている。写真、ファウンド・フッテージ、映写された映像の再撮などから映像の断片的な特性を捉えたサイレント作品『ムービング・ピクチャーズ』。日記的な身辺映像を通し、愛する二人の子どもや友人たちに先立たれた喪失感を浮かび上がらせる、〈現在〉と題された私的映画『ザ・プレゼント』。
日本/2004/日本語/カラー/ビデオ/26分
監督:河瀨直美 Kawase Naomi
不在の父を描きつづける作者が女優の身体を借りて「父親」と対面する。仕掛けられた映像に映りこむ感情と主観に「私映画」と言われるものに対する強い批評が見られる。

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PROGRAM C 自我を越える

109日[]10:00

日々 "hibi" 13 full moons
日本/2005/日本語/カラー/ビデオ/96分
監督:前田真二郎 Maeda Shinjiro
2004年の365日を毎日、カメラつきノートパソコンでワンカット15秒撮影。撮影の時間帯は月の周期に準じた。無編集につないだ“自動的”な映像が生み出す「私」性は生き生きしていた。

109日[]13:00

ギャンブル、神々、LSD
スイス、カナダ/2002/英語、他/カラー/35mm/180分
監督:ピーター・メトラー Peter Mettler
宗教、ドラッグ、セックスなどを通して生の“恍惚”を探求する人々と出会う旅はトロント、ネバダ、スイス、南インドに及ぶ。映画を作る「私」と、個を超えた万物の複合体に到ろうとする人らの姿が重なる。
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PROGRAM D 裸にする

109日[]17:00

カルノジカ
スイス/2004/言語なし/カラー/ビデオ/12分
監督:マルティーナ・ジャコマ Martina Jacoma
レントゲン写真や内視鏡など医療機具を使って人間の身体を“解剖”したビデオアート作品。自伝的な体験が映像実験に転換・表出される。
ははのははもまたそのははもその娘も
日本/2005/日本語/カラー/ビデオ/11分
監督:瀬戸口未来 Setoguchi Miki
病床の母親と幼年期に離島で過ごした祖母との(幻想の)記憶を受け入れるため、さまざまな食べ物で作られた肉人形に呪詛を吹き込む。現代の鬼子母神ものがたり。
パリッシュ家
スイス/2003/スイス・ドイツ語、他/カラー/ビデオ/30分
監督:ヤェール・パリッシュ Yael Parish
幼年時代、共働きの両親は乳母を雇って三人の子どもたちの育児を任せた。大人になった長女は代々の乳母たちを訪ね歩き、今は離婚した父母と弟たちの心傷を問いただしていく。
ガールフレンド
日本/2005/日本語/カラー/ビデオ/32分
監督・脚本・編集・録音:園部真実子 Sonobe Mamiko
作者は同級生の友人と毎日を過ごしながら、彼女を「裸にしたい」衝動に突き動かされる。第三者の「あなた」に語りかけるナレーションとカメラの偏在が三角関係を深める。山形の東北芸術工科大学卒業制作。
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PROGRAM E 語り

1010日[月・]10:00

映像書簡10
日本/2005/日本語/カラー/ビデオ/36分
監督:かわなかのぶひろ・萩原朔美 Kawanaka Nobuhiro + Hagiwara Sakumi
1979年から映像による往復書簡を続けている二人の10作目。身辺映像をやりとりする過程は、身体の老いや親しい者たちの死など生命という共通テーマを立ち上らせた。
気ままなヤツ
スイス/2003/ドイツ語+スイス・ドイツ語/カラー/35mm/88分
監督:ピーター・リエヒティ Peter Liechti
煙草を止めようと3度の徒歩旅行に出る作者。ニコチンを絶つ旅は自己への内省、自分史の探究、スイスという土地の再発見として作品化されていく。
極私的に遂に古稀
日本/2005/日本語/カラー/ビデオ/35分
監督:鈴木志郎康 Suzuki Shirouyasu
70歳になろうという作者が、肉体の衰えを自覚し体操を始めた。日々、庭の草花を慈しみ、意識の活性化に到る。日本の私映画の草分け的作家が2004年を振り返る最新作。
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PROGRAM F 政治的なことでも個人的である

1010日[月・]14:00

パレード
スイス/2002/フランス語/カラー/ビデオ/78分
監督:リオネル・バイアー Lionel Baier
保守的な田舎町でゲイ・パレードを行なおうとする人々を7ヶ月間撮影する。特に活動家でもなく同性愛者として生きることを享受していた都会暮らしの作者が映画制作を通して成長を遂げていく。
針間野
ベルギー/2004/日本語+フランス語/ビデオ/53分
監督:田中綾 Tanaka Aya
学生運動に参加したため共産主義者として静岡県で就職差別を受けた父。当時後にした実家の山村を、ベルギーに暮らす娘の作者と共に再訪する。澄んだ空気と山の緑に包まれた父娘の対面は日本の戦後史を映し出す。

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