受賞作品 審査員コメント
インターナショナル・コンペティション
審査員:
崔洋一(審査員長)、ドミニック・オーヴレイ、
賈樟柯(ジャ・ジャンクー)、呉乙峰(ウー・イフォン)
- ●総評
- 世界はひとつの価値観で支配されないことを活写し、様々な視点、世界観の混在こそが現実と個人が真摯に向かい合う方法であり、また、個人と個人が自己と他者として認識し向かい合う方法であることを示したのが今回のインターナショナル・コンペティションの大きな特徴であった。つまり、ドキュメンタリー映画の定義付けや役割が社会的有効性だけで語られるのではなく、すべての映画は結論のために存在しているのではないことを実証したと言える。複雑で困難な時代だからこそ、人間の記憶として我々の意識に深く突き刺さる一群の映画が山形に存在した、いや、存在し続けると確信する。
●ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)
『水没の前に』-
中国/2004/北京語/カラー/ビデオ/143分
監督:李一凡(リ・イーファン)、鄢雨(イェン・ユィ)
生活の細部から、その向こうに横たわる国家を見据えている。それは、声高ではなく、人々への愛情溢れる監督の視点の強さを証明するものだ。
●山形市長賞(最優秀賞)
『ルート181』- ベルギー、フランス、イギリス、ドイツ/2003/アラビア語、ヘブライ語/カラー、モノクロ/ビデオ/270分
監督:ミシェル・クレフィ、エイアル・シヴァン
見果てぬ夢、終りなき旅の映画として評価する。作り手の素朴な感情が生む神経むき出しの人々の物語は現在も続く。
●審査員特別賞
『ダーウィンの悪夢』- オーストリア、ベルギー、フランス/2004/英語、ロシア語、スワヒリ語/カラー/35mm/107分
監督:フーベルト・ザウパー二極化する世界を冷静に力強く描いている。テーマの重要性を示した監督の力量と映像の素晴らしさは「遠い世界」ではない現実を知らしめる。
●優秀賞
『海岸地』- オランダ/2005/オランダ語/カラー、モノクロ/35mm/70分
監督:アルベルト・エリンフス、オウジェニー・ヤンセン静止した時間と移ろう時間を切り取るような映像と淡々とした作家の観察眼が鋭い。そして物悲しい風景は逆説として人間の生を美しく語る。
●優秀賞
『静かな空間』- フィンランド/2005/フィンランド語/カラー/ビデオ/54分
監督:メルヴィ・ユンッコネン小さな家族の日常が時代の流れに次第に変化していく記憶のための記録映画。家族として関わる作家自身の息づかいと父親が撮る8mmに映し出される絆の深さが印象的。
アジア千波万波
審査員:村山匡一郎、ピンパカ・トゥイラ
-
●小川紳介賞
『チーズ と うじ虫』 - 日本/2005/日本語/カラー/ビデオ/98分
監督:加藤治代母親の死と向かい合った個人映画であるが、センチメンタルな感傷に陥ることなく対象との距離を保ちながら作品を巧みに構築しているのは素晴らしい。ポエムのように紡ぎだされた言葉と映像との組み合わせが見る者の視線を膨らませ、作者と対象との関係を超えた映画的な世界が紡ぎだされていく様は、初々しい新鮮な印象をもたらしてくれる。肉親の死という誰もが感傷的にならざるをえないにもかかわらず、感動は作品世界そのものから生み出される。
●奨励賞
『大統領ミール・ガンバール』- イラン/2005/ペルシャ語/カラー/ビデオ/70分
監督:モハマド・シルワーニ大統領選挙に何度も立候補して落選する田舎のおじいさん。そのまじめで朴訥な姿を客観的な距離を保ちながら描くことで、イラン社会の片隅で生きる人々の感情と姿がアイロニーを漂わせながら伝わってくる。遠景でとらえたオープニングシーンが素晴らしいし、またラストの夫婦の絆を見せるところも秀逸だ。対象とその環境の持つ雰囲気やリズムを尊重した作り手の姿勢が印象深い。
●奨励賞
『ガーデン』- イスラエル/2003/ヘブライ語、アラビア語/カラー/ビデオ/85分
監督:ルーシー・シャツ、アディ・バラシュテルアヴィヴの街に暮らすティーンエイジャーのストリートチルドレンの生活を追っているが、対象となる二人の若者が素晴らしい。そうした対象との出会いと歳月をかけた撮影は、明らかに作り手の才能である。彼らの生活に入り込み、彼らの感情を巧みに引き出しながら、往々にして政治的にとらえがちなイスラエル社会の現状を別の面から生き生きと描き出していて刺激的である。
●特別賞
『Dear Pyongyang』- 日本/2005/日本語、韓国語、朝鮮語/カラー/ビデオ/107分
監督:梁英姫(ヤン・ヨンヒ)「在日」という避けて通れない自分の生い立ちから、自分と父親の関係と家族の絆をみつめた個人映画であり、「在日」の歴史と自分史を重ね合わせた意欲的な作品である。作者は映像による見せ方も心得ているようで、多くの要素を巧みに取り入れながら自分の生き方を問いかけるという構成は刺激的である。カメラによって何かをとらえたいという作者の欲望がひしひしと伝わってくる作品だ。
●特別賞
『25歳、小学二年生』- 台湾/2003/北京語、台湾語/カラー/ビデオ/60分
監督:李家驊(リー・ジアホア)子供の頃に起こした事件のトラウマに苛まれる作者がカメラで自分の心を見つめなおすという自分探しの個人映画である。言葉によって伝えようとする部分が大きいが、それでも映像は絵解きにならずにカメラで検証しようとする姿勢は評価できる。自分の心の傷をこじあけることは辛いことだが、その苦しさや切なさが映像の連なりの隙間から滲みでてきて見る者の胸に迫ってくる。
市民賞
- 『イラク ― ヤシの影で』
- オーストラリア/2005/アラビア語、英語/カラー、モノクロ/ビデオ/90分
監督:ウエイン・コールズ=ジャネス
国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞
- 『チーズ と うじ虫』
- 日本/2005/日本語/カラー/ビデオ/98分
監督:加藤治代『チーズ と うじ虫』は多くの理由により印象深い作品だ。最も力強い感動を与え、心動かされないでは見れない映画である。加えて監督は、感性、スキルや知性で、記憶や心象、人生における芸術作品の場所についての大切な言葉を作り出している。
●国際映画批評家連盟最優秀短編映画
『忘却』- トルコ/2003/トルコ語/カラー、モノクロ/ビデオ/27分
監督:ジェレン・バヤル、ディレキ・イイギュン、エリフ・カラデニズリ、オズゲ・ケンディリジ、サヴァシュ・イルハン『忘却』は2000年トルコ刑務所で起きた過去の事件を、巧妙な機知と簡潔な映画的用語でパワフルに再構成している。
つど重なる政治的圧力後のトルコ社会のジレンマに多くの疑問を投げかけている。現在の安全情況や過去を永遠にぬぐい去りたいトルコ人の立場を、映画は“歴史”の意味さえも問いただそうとしている。
コミュニティシネマ賞
- 『ダーウィンの悪夢』
- オーストリア、ベルギー、フランス/2004/英語、ロシア語、スワヒリ語/カラー/35mm/107分
監督:フーベルト・ザウパーこの映画は、われわれの日常と深く結びついている現実、しかし、通常は見ようとしていない現実を、映画というものの力によって、我々に見せてくれる作品である。
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